改めて「価格競争からの脱却」を目指して(6)イベントがブランドの歴史を創る

価格競争からの脱却
価格競争からの脱却を目指す10の作戦
価格競争からの脱却
価格競争からの脱却を目指す10の作戦

イベントの場においては、Human to Human/Heart to Heart/Hiza to Hiza(膝と膝)の“3H to 3H”コミュニケーションが起こるように計画・実行し、このブランドならではのコミュニティ=絆を形成する。

安っぽいイベントは意味がない

 このように、現実の世界で抽象的なブランドの世界を具象化して実現する“コト”を提供していくことができれば、既存メディアに依存することなく強力なブランドが構築される。そしてブランドの持つ超過収益力が生まれ、ソフトの価値が付加されて、さらに一歩価格競争からの脱却を図ることになっていく。

 ただし、この場合のイベントは質の高いものである必要があり、ゆめゆめ貧弱な印象を与えてはならない。同様に、店舗、店頭もブランドとしての一貫性ある展示・表現が求められるものであり、やはり質の高いものである必要がある。コトの価値を創造するためには、きめ細かい仕組みが、ときには大掛かりな仕掛けが、必要になる。

 つまりは高質な販売環境が、価格競争からの脱却には重要な要素になる。

 拡大された顧客接点であるイベントにおいても、基本的で日常的な顧客接点である店頭においても、顧客視点に基づく、「凡事の非凡な徹底」が実践されることにより、きめ細かさが蓄積された高質な、顧客満足度の高い顧客接点になっていることが、価値売り実現のための顧客の接点における共通必要事項である。

イベントが新規需要を作る形へ

 さて、イベントを通じて顧客と販売店とメーカー(サプライヤー)が同じ商品やブランドについてWin-Win-Winな関係で結ばれる、コミュニティ=絆=の形成を実現する。

 そのことで新規顧客の創出、既存顧客の維持、ブランドの世界の拡大、相互の関係性の進化等が実現され実感される。それによって顧客の脳裏において、当該種品に対する、当該ブランドに対して感じられる顧客価値が一層高まり、価格競争から脱出するための有利な環境が形成される。イベントによって、Turn Dreamers Into Buyers. すなわち、ブランドに夢を持つ多くのポテンシャルな潜在顧客を顕在顧客化させるのである。

 このように起点をイベント=コトとし、終点を新規需要の創出とするビジネスモデルを駆動すること、これが販売プロセスにおける価値の創造なのである。このようなイベントを商品特性・ビジネス特性にマッチさせて展開することは、商品やそれを提供・販売する企業の歴史と伝統を生み出すこととなり、確固たる高付加価値産業への転身の実現につながるのである。

ハーレーの奇跡はすべての産業に通用する

 以上の知見は、筆者がハーレーダビッドソン・ジャパンで実践してきたことである。

 筆者が同社の社長に着任した当時、ハーレーダビッドソンというオートバイは競合製品と比較して平均2倍という高価格の壁が立ちふさがっていた。競合企業は、今なお活発に成長を続けて、世界のオートバイ市場を牛耳る、日本のホンダ、スズキ、ヤマハ、カワサキという、オートバイ業界では世界の4大ジャイアント企業である。これらに対し、ハーレーダビッドソンジャパンは日本では中小企業に過ぎない。いわば巨象が行進する中でネズミが上を目指したのである。

 しかも、当時はまだ世界の3大自動車メーカーと言われていたGM、フォード、クライスラー等のアメリカ製の自動車のいずれもが、日本では全く販売実績を伸ばせずにいた。アメ車というものは、日本では売れないのである。

 そのような中で、1991年から2008年の“失われた20年”の最中に、ハーレーダビッドソンジャパンは連続増販を達成し、1990年からすると6倍の以上に販売台数を伸ばし、かつ、日本の大型バイク市場で(法的には400cc以上のバイクを指す。ただしハーレーのバイクの標準的な排気量は1584ccである)圧倒的な市場シェア約37%を取ってナンバー・ワンとなり、24年間継続成長を遂げた。その原動力となったものこそ、我々が「ライフスタイル・マーケティング」と呼んだ“コト売り”=イベント・マーケティングの実践であった。

 これまでの説明は、これらの経験と成果を背景に、実感する所を述べているのである。

“オールド・エコノミー”に属する代表的な産業であるオートバイ産業に属する製品であっても、適切なマーケティングを展開すれば、販売プロセスを通じて顧客価値を創出し、新規需要も獲得してブランド価値も高められる。しかも、価格競争には全く組み込まれることがなかった。なにしろ、この期間のハーレーダビッドソンは、日本における全自動車関連製品の中で最も希望小売価格の変化が少なかった上に、値引きの発生も少ない商品に入ると言う実態がある。

奥井俊史
About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/