ブランド創造で留意すべきポイント 10(2)

不況に強いブランドが備える特徴
不況に強いブランドが備える特徴

不況に強いブランドが備える特徴

ブランド創造のプロセスで繰り返し考え実践するべき10のポイントを指摘している。メディアを的確に利用するには、ブランドとは“モノ”や名称ではなく、経験や感動など“コト”として記憶されるものという前提を押さえることだ。

“モノ”の中に価値はなく“コト”として価値を生ずる

 繰り返しになるが、モノの価値は、実際はモノの中にはなく、そのものを消費する過程で生ずる心の働きによる“コト化”のプロセスの中で生じる。モノそのものではなく、消費者の頭の中、心の中に生まれ、感じ取られ、評価されて、初めてモノの価値がコトとして発生するのである。これが私が「感性価値」「心理的価値」と呼ぶものだ。そのようにコトとして記憶され、繰り返し心を揺さぶりながら、消費者の頭や心の中に蓄積されたものこそが、価値あるブランドである。

 ブランドとは、商品・サービスに対して脳内に出来上がるイメージの総体であるということはぜひ銘記いただきたい。ブランドによって琴線に触れられ、ブランドによって突き動かされる、言わばBe Touched By Brand./Be Moved To Get It.といった世界を構築することが、ブランドの創造に他ならない。

 したがって、先に掲げたブランドの呼称(ネーミング)、ロゴ、カラー(ビジュアル・アイデンティティ/VI)を確立し管理することとは、ブランドを創造するための一部分でしかない。とは言え、同時に基礎の基礎としてこれらは当然に必要なものであることは言うまでもない。

認知度のアップ=販売量アップとはならない

 このように、ブランドは、心理的なもの、感性あふれる人間対人間の出会い、接触、コミュニケーションに大いに依存する。

 このため、セルフサービスを前提としたモデルを採ることの多いチェーン・ビジネスでブランドを育てることは難しいものであるということは理解しておかなければならない。

 また同様に、生身の人間同士のふれ合いとは言えない(5)メディアの使い方についても、十分な注意が必要である。

 一般的には、マスメディアに大金を投じて商品・サービスの名称や企業名の露出を行えば、ブランドは比較的に容易に構築されるものと勘違いされている場合が多い。確かに、マスメディアでの露出頻度を高めることによって、比較的短期間に認知度を向上させることはできる。つまり、金の力によって有名になることを一時的に買うことはできる。

 しかし、認知度の向上が購買を保証することにはならない。しかも、金の投入をストップすると、せっかく高めた認知度も急速にしぼんでしまうことが多い。短期間に認知度だけを高めたブランドは、消費者の心の中に深く刻み込まれた記憶を伴うものではないために、ほとんどが短命で終わる。

「マーケティング=広告」であると錯覚し誤解している人は少なくない。しかも、広告による認知度上昇の費用対高価が高ければ高いほど、この錯覚・誤解は強固なものとなる。大切なことは、その背後には必ず地道で確実なブランド構築のためのリアルな活動があるべきということなのだが、それを過たず実行し続けるには、よほど長期的な視野に立った深い戦略と、そのバックボーンたる理念や世界観がなくてはならない。さもなくば、金の切れ目がブランドの命の終わりを意味することになる。

メディア依存・タレント依存は失敗する

 また、メディア依存体質がかえってブランドの価値を損なう場合も多い。たとえば、有名タレントの起用にはリスクがある。ある企業が十分なイメージ調査に基づいてタレントを吟味し、継続して大金を投じて広告を展開して認知度やイメージを向上させたとしても、そのタレントの人気の源泉である強いイメージが逆にブランドの障害や限界の元になっていくことはある。さらに、そのタレントが引き起こすスキャンダルがブランドを大きく傷つけたり、一瞬にしてブランドを破壊してしまうことさえある。これは、新規に創造しようとするブランドだけでなく、既存のある程度構築されたブランドについてもしばしば発生する事態だ。

 逆に注目しておきたいのは、成功しているブランドは、有名タレントを使わないか、特定のタレントの力を借りるにしても、直接広告に起用するよりも、彼・彼女は「ホルダーである」「ユーザーである」「ファンである」といった間接的な使い方しかしていないということだ。

 フランスやイタリア、スイスなどのアパレル(ファッション、宝飾、装身具、時計など)のプレミアム・ブランドは、時機に応じて著名で評価の高いモデルは使用するが、そのモデルの知名度に依存してブランドの認知度を高めることなどはしていないものだ。ロールスロイス、フェラーリ、ポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、レクサスなど自動車のブランドでも同様だ。

 ディズニーはディズニーの世界に登場するディズニーのキャラクター以外、広告にタレントは一切使っていない。コカ・コーラも有名タレントのイメージに依存する広告はしていない。比較的新しいブランドでも、たとえばユニクロも認知度を上げるために長期に渡って同一のタレントを使うということをしていない。外食産業でも、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキンなどは、タレントを使った広告によって認知度が向上したのではない。黎明期には業態理解を深めるための広告は行ったし、現在はキャンペーンや新商品の告知のための広告は盛んに行っているが、いずれも有名タレントを長期的に起用した例は少ない。また、そもそもこれらの認知度を上げるのに最も寄与したのは、店舗網の存在そのものだ。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/