検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(1)なぜこのシリーズを書くのか

GMS(ゼネラルマーチャンダイジングストア)、スーパーマーケット、ファミリーレストラン、ファストフードなどはチェーンストアと呼ばれる。その経営手法を米国に学び、チェーンストア理論(渥美理論)として体系化して日本に紹介したのは故渥美俊一氏である。だが今日の日本では、渥美理論によらない“チェーン”も展開され成功している例がある。渥美理論を検証し、これからのチェーンの形を明らかにしていく。

渥美理論に反する“チェーンストア”

 FoodWatchJapanがすでに足かけ2年続く中で今さらのことではあるが、読者の方々の中には「オートバイを売っていた奥井が、なぜFoodWatchJapanで執筆しているのか?」と不思議に思っている方もいるだろう。そこを少し説明しておきたい。

 FoodWatchJapan編集長の齋藤訓之氏と出会ったのは、2008年のことだ。当時齋藤氏は「日経ベンチャー」(日経BP社・現「日経トップリーダー」に定期的に執筆していて、かつて販売が低迷していたハーレーダビッドソンを日本でいちばん売れるオートバイ(400cc以上)にまで伸ばした戦略と組織について取材にきたのだ。

 その後、私が同誌に連載コラムを持つことになり、お付き合いが続いたのだが、齋藤氏がしきりに尋ねてくることがあった。それは、ハーレーダビッドソンジャパン(以下HDJ)のディーラー(販売店)との関係づくりについてだ。

 HDJのディーラーは、それぞれ独立した企業や事業主で、HDJとは資本関係はない。また、店舗作りやオペレーションの指導はするが、フランチャイズ・チェーン(FC)と違って指導には絶対の拘束力があるわけでなく、また売上高や利益高に応じたロイヤリティを徴収するということもない。HDJもディーラーも、それぞれ規模の大小はあれ、ともに中小零細企業であり、対等なパートナーである。少なくとも、私はHDJとディーラーをそのような関係に育ててきた。

 齋藤氏は、そこが不思議だと言うのだ。不思議と言われるのは、むしろこちらのほうが不思議なのだが、ここで出て来たのが渥美俊一氏という方の名前だ。曰く、HDJのディーラー、販売網は全体を俯瞰すれば、11店舗以上を一つの理念・しくみのもとに運営するチェーンストアに見える。ところがこれは、日本で「チェーンストア理論」(以下渥美理論)なるものを提唱・普及した渥美俊一氏の教えに反することだらけだというのだ。

ではチェーンストアとは何か?

 反するとは、まず第一に本部と店舗で資本が異なり、いわゆる直営チェーン(レギュラー・チェーン/RC)ではないということ。資本提携のような関係もなければ、FCのしくみも持っていない。それでどうして統制が取れるのか?

 また、主力商品は1台200万円を超える高額商品(大型自動二輪)で、渥美俊一氏が言うところの「ベスト・プライス」(追って説明していくが、財布から簡単に出せる金額ではない価格という意味であるらしい)かそれを遙かに超えている。パーツやアパレル商品も扱うが、そのいずれも「ベスト・プライス」かそれを上回る価格である。そういう商品で、チェーンストアが成り立つとは考えられないという。

 そもそも、渥美理論ではチェーンストアは日々の生活に多く深くかかわる商品に特化する「ドライ商法」なるものを追求するはずで、スノビズムに応えるもの、豪華な物品、ギフト、遊興などの商品・サービスはチェーンストアが扱うものではないはずとも言う。

 また、HDJにも各種のマニュアルはあるが、挨拶の言葉や基本的な動作まで規定したものではない。店舗のスタッフは役割に応じた判断と責任を受け持っている。こうした組織、オペレーションも渥美理論に反するという。

 おそらく、渥美理論に基づくチェーンストアに属する人は、私が経営していた当時のHDJを見ても「あれはチェーンストアではない」の一言で片づけるのだろう。こうして列挙したように、渥美理論と違うことばかりだからだ。にもかかわらず、これが「チェーンストアに見える」と言う齋藤氏はちょっと変わった人なのだが、これをきっかけに私たちは、チェーン/チェーンストアとは何か? どのようなもので、何を可能にするものか? 今後どうなっていくか? などについて話し合うようになった。

これからの市場に応えるチェーンへ

 しかし、齋藤氏はやはり頭が固いのだ。とくに渥美理論式の価格政策、価格ゾーン(プライス・レンジ)、それらに基づく業態分類などにこだわり過ぎるきらいがある。私はその部分について再三、大きな意味のある考え方ではない、そこからビジネスを発想すべきではないと説明しているのだが、どうもまだ理解が足りないようだ。

 ただし、今後の日本および世界の市場は渥美理論では満足させ難いという意見は持っているようだ。私もおそらくそうなのだとは思ったが、「おそらく」としか言えないのは、私が渥美理論について全く不案内だったからだ。知らないものについて、善し悪しは言えない。

 ところが最近、渥美理論を重視して成長してきた企業や、そうした企業に働くビジネスパーソンとのお付き合いが出来てきた。そこで感じたのは、やはりその方たちも、私には理解しがたいある種の“呪縛”にとらわれていて、そのことでせっかくの個性・独自性や実力を伸ばせずにいるのではないかということだ。

 そこで、これを機会に、渥美理論の大筋をつかみ、そのよい面とよくない面を明らかにする必要があると考えた。今回からその考察の結果を披露していきたい。

 ただ、一つご理解いただきたい。私は渥美俊一研究家ではなく、企業実務に役立つことを考え、整理し、お伝えすることを業とする者だ。聞けば渥美俊一氏の著作は膨大で、かつ渥美理論のすべてをコンパクトにまとめた著作というものはなさそうである。そもそも、渥美氏が主催していた日本リテイリングセンターとその指導先であるペガサスクラブ(チェーンストア経営研究団体)会員でなければ入手のかなわないテキストも多いようだ。それらすべてを読んだ上でのお話ではないということをご了承いただきたい。

 それに代えて、「チェーンストア経営の原則と展望/全訂版」(2008年、渥美俊一著、実務教育出版)等いくつかの書籍と、齋藤氏(1989~1994年にかけてほぼ毎月渥美俊一氏への取材を行い、その後も独学を続けていた)による説明から渥美理論の大枠をつかむことにした。

 悔やまれるのは、2007年7月、渥美俊一氏は他界され、もはや直接お話を聞く機会、渥美氏ご自身による反論を承る機会は、永遠に失われてしまったことだ。

 執筆ではくれぐれも故人に失礼のないように心掛けるつもりだ。また、日本リテイリングセンター並びにペガサスクラブの長年の活動によって、渥美理論、渥美俊一氏の考え方について詳しい方は多くいらっしゃるはずだ。その方々から、渥美氏ならこう答える、氏の真意はここといった反論やご意見をいただくことを期待している。

 目指すところは、実務者たちの手によって、今日にふさわしい、日本発の、新しいチェーン・ビジネスの形を明らかにしていくことだ。

※渥美俊一 1926年8月―2010年7月。三重県松阪市出身。1952年東京大学法学部卒業。読売新聞社に入社し経営技術担当主任記者として「商店のページ」を担当。米国式チェーンストアの経営手法に可能性を見出し、1962年からチェーンストア経営研究団体ペガサスクラブを主宰。コンサルティング機関日本リテイリングセンターを設立し、チーフ・コンサルタントとして活躍。育成指導した企業は今日大手小売チェーンに成長した各社をはじめ約700社に上る。

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アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/