「エル・ブリ」「すきやばし次郎」三つ星名店のメニュー

すきやばし次郎
「すきやばし次郎」ではその時にいちばんおいしい旬の素材を活かした20カンをフルコースのように出していく
消えるラビオリ
「消えるラビオリ」。松の実のプラリネをオブラートで包み、下の容器に入っている水にしゃぶしゃぶのように浸して、包んでいた皮が消える間際にいただく

レストランのガイドブックとして世界的に名高いフランスの「ミシュランガイド」では、「それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」に三つ星の評価を与えている。“三つ星店”には、評価に値するだけの条件が備わっているはずである。今回はミシュランで三つ星を獲得した店にまつわる2本の記録映画を通じてそのことを考えてみたい。

「エル・ブリ」の“消えるラビオリ”

「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」(2011)は、スペイン北東部カタルーニャ地方、カラ・モンジョイの入り江にあったレストラン「エル・ブリ」を舞台にしたドキュメンタリーである。

「エル・ブリ」は1964年開業。1997年にはじめてミシュランで三つ星を獲得し、「サンペレグリノ世界のベストレストラン50」(英Restaurant誌)では、過去5回世界第1位に選ばれた。45席しかないシートに年間200万件もの予約希望が殺到する「世界一予約のとれないレストラン」であった。

 このレストランの厨房を仕切るのは、オーナーシェフのフェラン・アドリア。彼は「世界でもっとも革新的なシェフ」と称され、ときに科学技術を駆使しながら固定観念にとらわれない料理を作ってきた。亜酸化窒素ガスを使ってあらゆる食品を泡状にする「エスプーマ」の開発はその一例に過ぎない。また日本の食材や料理にも造詣が深く、映画でも柚子、柿、醤油といった名詞が日本語のまま登場する。

「エル・ブリ」は10月から翌年3月までの半年間は休業し、フェランと彼のスタッフたちはカラ・モンジョイから車で約2時間ほどの大都市・バルセロナの研究用アトリエにこもって創作料理の開発に専念する。彼はスタッフに試作品のすべてをデータ化することを命じ、納得するものができるまで何度もダメ出しを繰り返す。彼は「前衛的なレストランに客が求めているのは新しい感覚だ。単においしいというだけではなく何かを感じさせるんだ」と言う。

 そして試行錯誤の末に生み出された一握りの料理だけが次のシーズンに客の前に供される。それらはモダンアートのような視覚的な芸術性と味覚を両立させ、訪れる客たちを驚かせる。

 ちなみに「水」をテーマにした2009年のメニューは以下の35品である。その全ては映画のラストに映し出されるスチール写真で見ることができる。

  1. モヒート カイピリーニャ
  2. 針の木
  3. ゴルゴンゾーラの球体
  4. ティーシュリンプ キャビアのアネモネ添え
  5. イミテーション ピーナッツ
  6. アメリカーノ カクテル
  7. パルメザン クリスタル
  8. チェリー ウメボシ
  9. バニラ チップス
  10. ブロッサムその花蜜漬け
  11. ココナッツ スポンジ
  12. ハムとジンジャーのカナッペ
  13. 花とマカデミアのオイルウォーター
  14. 骨髄のタルタル オイスター添え
  15. マドラスカレー風味のモンジョイ産ヒラマメ
  16. 柚子の器のトリ貝 グリーンオリーブとフェンネル
  17. アーモンド プレート
  18. キノコのヘーゼルナッツ油漬け 赤スグリとピーチの藻
  19. カボチャのドライメレンゲのサンドイッチ アーモンドとサマートリュフ入り
  20. ミカンと青オリーブのアイスビネグレット
  21. バラのアーティチョーク
  22. 脳みそ入りの兎のシチュー
  23. 肉汁に漬けた兎のリブ
  24. 消えるラビオリ
  25. 西洋タマゴ茸のカネロニ
  26. 仔牛の肩の軟骨 広東風
  27. 鳥の皮と腱のカナッペ ルリチシャ添え
  28. 種の金箔包み パルメザンラビオリ添え
  29. サツマイモのニョッキ
  30. 氷の湖 ミント風味
  31. パイナップルのフィロ
  32. アフターエイトのマシュマロ
  33. フローズン ローズ
  34. 貝の盛り合わせ
  35. チョコレートBOX

 この中の一品「消えるラビオリ」は、松の実のプラリネをオブラートで包み、しゃぶしゃぶのように水に浸すと皮が消えてしまう仕掛けが施されたこの年のテーマを体現した料理である。フェランは、フードコーディネーターの結城摂子氏が日本の東急ハンズで買ってきたプレゼントでオブラートの存在を知ったとのことだ。薬をオブラートで包んで飲む習慣は日本独自のものだったらしいのだが、この料理によって今や世界中の料理人がオブラートを知ることとなり、成田空港の薬局にも置かれることになったという。

 このように世界の料理シーンにさまざまな影響を与えてきた「エル・ブリ」であるが、2011年7月をもってレストラン業務をいったん終了した。現在は休業中だが、2014年からは「料理研究財団」として再生し、創作料理のさらなる発展のための新たなステージに進む予定だという。

●「エル・ブリ」
http://www.elbulli.com/

●「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」
http://www.elbulli-movie.jp/

「すきやばし次郎」の“おまかせコース”

すきやばし次郎
「すきやばし次郎」ではその時にいちばんおいしい旬の素材を活かした20カンをフルコースのように出していく

「ミシュランガイド東京」が2007年11月に初版が発行されて以来、6回連続で三つ星を獲得しているのが「二郎は鮨の夢を見る」(2012)に登場する鮨店「すきやばし次郎」である。

「すきやばし次郎」は87歳で現役の初代店主・小野二郎が1965年に東京・銀座の数寄屋橋で開いた。以来47年間、オフィスビルの地下でカウンター10席ほどの小さな店でありながら、彼の江戸前鮨の伝統を守り、おいしい鮨を目指して研鑽を続ける姿勢が国内外の食通に高く評価され、ギネスブックにも世界で最高齢の三つ星料理人として認定されている。

 値段は鮨だけで3万円、 早食いの人であれば15分もすれば食べ終えてしまう贅沢を味わうために1カ月前から予約が殺到する。その人気の秘密は、素材に対する飽くなきこだわりにある。

 二郎の息子で本店店主の禎一が築地に足を運んでその時にいちばんおいしい旬のネタを厳選する。一人では持ち上がらないほどの重い蓋で圧力をかけた釜で炊き上げたシャリの温度管理にも抜かりがない。そうして周到に準備されたネタとシャリによる、一つひとつが芸術品のような「おまかせコース」20カンを、二郎自らが客の前で次々に握って出してゆく様子を、アメリカ人でメトロポリタンオペラの総帥を父に持つデヴィッド・ゲルブ監督はクラシック音楽の旋律に乗せてテンポよく見せていく。

「至福のすし――『すきやばし次郎』の職人芸術」(新潮新書)の著者である料理評論家の山本益博氏は、優れた料理人の条件として「仕事に対する真面目さ、昨日より今日、今日より明日という向上心、清潔感、自分のやりたいことを押し通す短気、パッション」の5つを挙げているが、これは小野二郎氏だけではなく、「エル・ブリ」のフェラン・アドリアにもそっくりそのまま当てはまる言葉ではないだろうか。

 前衛的な創作料理と伝統的な江戸前鮨――相入れないように見えながら目的に向かう姿勢が、2本の作品を見て驚くほど似ていることに気付き、興味深かった。

●すきやばし次郎
http://www.sushi-jiro.jp/

●「二郎は鮨の夢を見る」
http://jiro-movie.com/

作品基本データ

【エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン】

「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」(2011)

原題:El Bulli Cooking in Progres
ジャンル:ドキュメンタリー
製作国:ドイツ
製作年:2011年
公開年月日:2011年12月10日
上映時間:113分
製作会社:if… Productions、BKM FFF=Bayern、Kuratorium Junger Deutscher Film
配給:スターサンズ、ドマ
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
レイティング:一般映画
メディアタイプ:35mmフィルム
音声:ドルビーSRD
◆スタッフ
監督:ゲレオン・ヴェツェル
◆キャスト
フェラン・アドリア
オリオール・カストロ
エデュアルド・チャトルック
ジュリ・ソレール

【二郎は鮨の夢を見る】

原題:JIRO DREAMS OF SUSHI
ジャンル:ドキュメンタリー
製作国:アメリカ
製作年:2011年
公開年月日:2013年2月2日
上映時間:82分
製作会社:Preferred Content
配給:トランスフォーマー
カラー/サイズ:カラー/HD
レイティング:一般映画
メディアタイプ:ビデオ
◆スタッフ
監督、製作、撮影:デヴィッド・ゲルブ
◆キャスト
小野二郎
小野禎一
小野隆士
山本益博

(参考文献KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。