お弁当のコミュニケーション

コミュニケーションツールとしてのお弁当の機能にスポットを当てた日本映画の2作品を取り上げる。

 本連載ではこれまで、手作りのお弁当が登場する映画を数多く紹介してきた。「のんちゃんのり弁」(2009、グルメ映画100選〈7〉)、「スタンリーのお弁当箱」(2011、第53回)、「めぐり逢わせのお弁当」(2013、ごはん映画ベスト10 2014年洋画編)、「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(2016、第129回)、「パターソン」(2016、第161回)、「恋妻家宮本」(2017、第160回)、「彼らが本気で編むときは、」(2017、ごはん映画ベスト10 2017年邦画編)といった古今東西の諸作品のお弁当に共通するのは、母から娘へ、母から息子へ、妻から夫へ、彼氏から彼女へ、彼女から彼氏へ、息子から母へ、夫から妻へ、疑似家族の“母”から娘へといった身近な人への愛情がこもったメッセージだということである。

 今回取り上げる2作品は、そうした役割を持つお弁当を中心に据えている。それぞれの作品でお弁当を作るのはシングルファーザーとシングルマザー。食べるのは共に女子高生の娘である。

「パパのお弁当は世界一」のアップデートするかわいさ

 2017年製作のフカツマサカズ監督作品「パパのお弁当は世界一」は、東京在住の女性が高校生活の三年間、父親に毎日お弁当を作ってもらっていた経験をツイートした実話が原案。ヒップホップバンド「TOKYO No.1 SOUL SET」のメンバーで、自身が高校生の息子にお弁当を作り続けた経験をエッセイ「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス)にまとめた渡辺俊美が映画初主演を務めている。

 妻(原優理子)と離婚したパパ(渡辺)は、体があまり丈夫でない高校一年生の娘・みどり(武田玲奈)の健康のために毎朝お弁当を作ることを決意する。ところが、これまで料理は妻に任せきりだったため、最初に作ったお弁当は、武骨なアルミのドカベンに原型を留めぬ茶色い謎の物体(おかず)が入った女子高生のお弁当らしからぬ代物で、味も塩辛くて食べられたものではなかった。

 友達のシホ(染野有来)とくるみ(熊谷江里子)の前で恥をかいたみどりはパパに抗議。もう作らなくていいと言うが、パパの決心は変わらない。以後、パパのお弁当は「作るならちゃんと作って」というみどりのダメ出しを次々に受けることになる。ぶつ切りで味のしないキャベツが入っていた時は「千切りが太い!」、朝時間がなくてごはんに焼うどんを乗せただけの時は「せめておかず2品」等々。

 パパは悩んだ挙句同僚の若手男子社員(田中光)に相談するが、彼の浅はかな助言に従ってしまったために大惨事を招いてしまう。

 だが、見かねた別の同僚の女子社員(荻野みかん)が助け舟を出してからは、パパのお弁当は劇的に改善していく。その内容は以下のようなものだ。

  • 弁当箱をかわいいものにする。
  • おかずのいろどりをカラフルにする。
  • レシピ本を参考にする。
  • 朝慌てなくて済むように前の晩に下ごしらえしておく。

 努力の甲斐あって、見た目がかわいく味もちゃんとおいしいお弁当にアップデートし、みどりからついに「ごちそうさま、おいしかったよ」という言葉をもらうことができたパパが一人狂喜乱舞する姿は微笑ましく映る。しかし、おいしくなったらなったで、さらなる問題が発生するのだった……。

 男親ゆえに、さまざまな経験に直面する年頃の娘に深入りせず腫れものに触るように接しながら、ごはんに乗せる海苔やふりかけの袋にさりげなく励ましのメッセージを添えるパパの心情に共感される方も多いのではないだろうか。

 高校卒業の日を迎え、父娘それぞれがお互いの気持ちをお弁当を通じて伝え合うシーンも印象的だ。

「今日も嫌がらせ弁当」のエスカレートするバトル

 現在公開中の「今日も嫌がらせ弁当」は、ブログ「ttkkの嫌がらせのためだけのお弁当ブログ」を基にしたKaori(ttkk)のエッセイが原作。

 八丈島を舞台に、事故で夫(岡田義徳)を亡くして以来12年間、女手一つで二人の娘を育ててきた持丸かおり(篠原涼子)が、反抗期を迎えまともに口もきかない次女で高校生の双葉(芳根京子)を過剰なデコ弁でいじり続けた3年間を描いた物語である。

 かおりは、高校ではクールな外面を装う双葉のイメージを壊すべく、ギャグやホラー、芸能人の似顔絵といった題材をお弁当というキャンパスに描いて笑いをとる“嫌がらせ”をする。「パパのお弁当は世界一」のパパが料理未経験で手さぐり状態だったのとは異なり、かおりは料理については百戦錬磨、お弁当がどのように広げられ他人の目に触れるかまで計算ずくである。案の定、回数を重ねるごとにクラスメイトの注目度も増していく。双葉はウザイと感じるが、母に負けるのが嫌で残さず食べ続け、母娘の冷戦は高校卒業まで続くこととなる。

「今日も嫌がらせ弁当」より。自分が食べた食器を片づけない娘・双葉に母・かおりは「皿は片せや!」と弁当を通じてメッセージを送る。
「今日も嫌がらせ弁当」より。自分が食べた食器を片づけない娘・双葉に母・かおりは「皿は片せや!」と弁当を通じてメッセージを送る。

 作り始めて3カ月もするとさすがにネタも尽きてくるが、家を出て自活中の長女・若葉(松井玲奈)のアドバイスを得て、海苔で書いた文字でメッセージを入れることを思いつき、日常の小言、苦情からクイズまで、嫌がらせ度はさらにアップする。

 かおりは「せっかく作ったのだから誰かに見てもらいたい」と、嫌がらせ弁当を画像と共に紹介するブログを開設。多くのアクセス数を稼いでいく。その読者の中に、妻を病気で亡くしシングルファーザーとして幼い息子と暮らす岡野信介(佐藤隆太)がいた。かおりは信介からのお弁当作りについてのお悩み相談に乗ったりしているうちに、まだ双葉が幼くかわいげのあった頃を思い出す。

 初恋と失恋、就活といった双葉の悩みに、嫌がらせの範疇を越えたお弁当メッセージで寄り添おうとするかおりだったが、ある日突然倒れてしまい……。

 嫌がらせ弁当を通じた母娘バトルに見えながら、実はそのお弁当を通じて心がつながっていたことは、“卒業弁当”と、旅立ちの“嫌がらせ返し弁当”で分かる仕掛けになっている。劇中に登場する嫌がらせ弁当は、フードコーディネーターのぬまたあづみが忠実に再現した他、原作者のKaori自身も応援でお弁当作りを手伝っている。


【パパのお弁当は世界一】

「パパのお弁当は世界一」(2017)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2017年
公開年月日:2017年6月10日
上映時間:65分
製作会社:「パパのお弁当は世界一」製作委員会
配給:ポニーキャニオン
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:フカツマサカズ
脚本:大野敏嗣
企画プロデュース:松崎崇
撮影:OKOZYO
美術:佐々木伸夫
音楽:石崎光
音楽プロデューサー:日置淳
主題曲/主題歌:片平里菜『なまえ』(ポニーキャニオン)
録音:水本大介、國分玲、西垣太郎
照明:白石弘志
衣装:入山浩章
ヘアメイク:大島美保
キャスティング:池田朋布
ライン・プロデューサー:島崎稔也
制作担当:飯塚雅和
助監督:荒明俊明
キャスト
お父さん:渡辺俊美
みどり:武田玲奈
ユウジ:清原翔
同僚の男子社員:田中光
同僚の女子社員:荻野みかん
シホ:染野有来
くるみ:荻野みかん
妻:原優理子

(参考文献:KINENOTE)


【今日も嫌がらせ弁当】

公式サイト
http://www.iyaben-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2019年
公開年月日:2019年6月28日
上映時間:106分
製作会社:2019「今日も嫌がらせ弁当」製作委員会
配給:ショウゲート
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督・脚本:塚本連平
撮影:柳田裕男
美術:高橋泰代
音楽:羽深由理
録音:石貝洋
照明:宮尾康史
編集:上野聡一
フードコーディネーター:ぬまたあづみ
キャスト
持丸かおり:篠原涼子
持丸双葉:芳根京子
持丸若葉:松井玲奈
山下達雄:佐藤寛太
持丸島次郎:岡田義徳
浩実:村上知子
岡野信介:佐藤隆太

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。