食い合わせ問題は食品添加物のハンディ

たくさんの材料で作ったパエリア。複数の食品をどう組み合わせて調理しても、毒が発生することがないというのは、考えてみればありがたくも不思議な話だ
たくさんの材料で作ったパエリア。複数の食品をどう組み合わせて調理しても、毒が発生することがないというのは、考えてみればありがたくも不思議な話だ
たくさんの材料で作ったパエリア。複数の食品をどう組み合わせて調理しても、毒が発生することがないというのは、考えてみればありがたくも不思議な話だ
たくさんの材料で作ったパエリア。複数の食品をどう組み合わせて調理しても、毒が発生することがないというのは、考えてみればありがたくも不思議な話だ

「ライフスタイル革命」という本がある。ナチュラル・ハイジーンという米国の健康法の入門書「FIT FOR LIFE by Harvey and Marilyn Diamond」の翻訳に、訳者による解説と実践のガイドを補ったもの。初版は1999年だが、最近は重版されていないようで書店ではほとんど手に入らない。オークションサイトでは非常に人気があり、いつも定価の2倍近い値が付いている。以前、あるオークションサイトで数万円の値が付いているのを見たこともある。

 ナチュラル・ハイジーンというのは、19世紀に米国で生まれた健康に関する考え方で、1985年の原書の出版を契機に実践者を増やしている。ハリウッドスターなどの著名人でベジタリアンと紹介される中には、正確にはこのナチュラル・ハイジーンの実践者というケースもある。

 この本が推奨する食事の原則は大きく三つある。一つは、水分を多く含む食品を摂ること。次に、食品の組み合わせや食べる順序に配慮すること。そして、果物を積極的かつ適正に食べること。動物性の食品を食べること自体は禁じていないので、ベジタリアンの一種と考えるのは正確ではない。

 この健康法で最も特徴的なアドバイスは、2番目の原則、食品の組み合わせや食べる順序に配慮することだ。例えば、でんぷんとたんぱく質を同時に摂るのはいけないとする。なぜなら、でんぷんを分解するのに必要な消化液はアルカリ性、たんぱく質のそれは酸性で、消化液が中和してしまうからだという。恐らく、胃酸が十二指腸ですい液などによって中和されることを指しているのだろう。

 著者のこの説明が妥当なものなのか、我々が学校で習うこととは違うので面喰う部分は多い。また、経験的な知恵の集成という面があり、それぞれの原則の根拠として、疫学的なデータはほとんど紹介されていない。だから、残念ながら膝を打つように「なるほど!」とは言えない。

 ただ、このくだりを読んで、日本には昔から“食い合わせ”というものがあったなと思い出し、食事の組み合わせや順序によっては、よからぬ結果を来たすものなのかと再考するきっかけにはなる。

「ウナギと梅干を一緒に食べるのは食い合わせが悪い」――こうした食い合わせの例は全国に多数伝わっているが、これは「民間療法」という民俗学が扱う分野の話題で、通常、医学や食品科学で本格的に扱われることは少ない。ただ、本格的に扱われることが少ないのは、よく調べた結果、問題がないことが分かった、ということではなさそうだ。検証の例は、「戦前にさる大臣が自分で主な食い合わせを一通り試してみたところ、いずれでも食あたりは起こらなかった」という、なんとも貧弱な“臨床試験”の話ぐらいのものだ。

 昨今は、その大臣が試さなかったはずの“新手”も出てきている。例えば、チーズフォンデュと冷たいビール。胃の中でチーズが冷えて固まって消化器の不全を起こし、スイスで日本人旅行者が死亡したとか。また、ドリアンと酒は、体内で異常醗酵を来たすとか。どちらも海外旅行と関連した話で、最近の日本人のライフスタイルと旅先での不安を反映した都市伝説のように思われる。ビールではなくワインの消費量を増やしたいとか、酔った勢いで露店で買ったドリアンをホテルに持ち込ませたくないといった、添乗員たちの商業的あるいは教育的な狙いも感じさせる。

 ただ、“新手”の中で無視しにくいのは、食品添加物同士の“食い合わせ”だろう。食品添加物の一つひとつについては安全性が検証され、用途、量、表示などが定められている。だが、複数の食品添加物を同時に摂取した場合にどうなるかについては、データが少ない。これは、消費者の食品添加物に対する不安の一つであり、食品添加物の使用に反対する向きの運動の根拠としても重要度を増しつつある。

 とは言え、多くの化学物質の様々な組み合わせを一つひとつ潰していくのには時間がかかる。理論的に問題が発生するはずがないとして、実験自体されないものも多いだろう。そのため、検証結果が示されない組み合わせ例が多数となる。この状態が続く限り、“食い合わせ”に対する不安を根拠としたアンチ食品添加物の動きは収まらないだろう。

 しかし、食品添加物同士の“食い合わせ”を問題にするならば、一般の食品同士の食い合わせについても、厳密な検証を求める動きが起こってもよさそうなものだ。そうはならないのはなぜか。

 それは、一般の食品は、長い年月の間に生活や生態系の中で何も起こらなかったと信じられているからだ。新しく人の手によって作られ、生活や生態系の中での歴史が浅い(またはそう信じられている)化学物質にとって、これはいかんともしがたいマーケティング上のハンディだ。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →