懐かしさと新鮮さと……「もみじ屋」(東京・飯田橋)

「もみじ屋」(東京・飯田橋)
名店「れもん屋」が同店スタッフたちによる後継店「もみじ屋」として復活
  • 「もみじ屋」(東京・飯田橋)
    名店「れもん屋」が同店スタッフたちによる後継店「もみじ屋」として復活
  • 飯田橋
    「れもん屋」を失った飯田橋

天候不順とは言いながら、ときに晴れ上がった空を見上げると夏の足音が聞こえてくるようにも感じます。こうして一日、一日と暑くなってきて……。北海道出身の自分にとっては、もはや「ほぼ夏!」ですね。青空や美しい夕焼けを見れば、自分は飲めませんが飲める人にとっては「ビアガーデンが呼んでいる!」っていう感じでしょうか。僕らの世代では、「ナイターとビール!」っていう黄金パターンもいよいよ本番でしょう。みなさん、節電の夏、暑さを楽しみましょうね。

「れもん屋」への愛

 大人になってから親しみを持った食べ物って、ないだろうか? 実家では食べつけなくても、世間では割とポピュラーだった、と気づくもの。自分にとっては、しゃぶしゃぶ、うなぎ、天ぷら、そしてお好み焼きがそうだった。

 とくにお好み焼きは、東京に出てきてから、大学時代に友人宅での飲み会やパーティーで食べるようになって、好物になった。それからは、外食でもおいしいお好み焼きを求めて食べ歩くように。関東風や関西風、いろいろ食べたけれど、いちばん好きだったのが飯田橋駅の線路沿いの「れもん屋」だった。

 目の前のでっかい鉄板で細切りキャベツをぎゅっと圧縮して焼く広島風。ソースをたっぷり含んだ生地が、食べた瞬間にふわり・とろりととろけ、そこからほろほろとキャベツがほぐれていくその食感に病みつきになり、学生時代から社会人になってからもずいぶん通った。

 ただ、ずっと超人気で予約不可の行列店だったから、暇と忍耐力がないと大好きなお好み焼きにありつけない。仕事を始めて忙しくなると、なかなか頻繁には行けなくなったが、それでも折に触れて通っていた。

 それが、昨年、いきなり「閉店する」という話になった。なんでも飯田橋駅の再開発のためらしい。近所の法政大学の学生をはじめとして大学生や社会人の長年のファンが多かったから、ほんとうに惜しまれつつの2011年2月の閉店だった。

 それからずっと「れもん屋」の味が恋しかった。

 おたふくソースの味、キャベツの甘み、たっぷりのそば……ソースの匂いを感じると考えてしまうのは「れもん屋」のこと。「ああ、『れもん屋』のお好み焼き、もう一度、食べたいなぁ」と、喉が鳴る、お腹が鳴る。自分にとってあれは、「広島焼き」ではなくて「あの味」だったのだ。

「れもん屋」後継店「もみじ屋」が登場

「もみじ屋」であの行列が復活
「もみじ屋」であの行列が復活

 その「れもん屋」。ついに、このゴールデン・ウイーク前、名前を変えた後継店が飯田橋に出来た! という情報をキャッチして、早速、確かめに行ってみた。

 場所は、以前の「れもん屋」の店舗から数百メートル離れた東京大神宮の裏あたり。飯田橋駅から徒歩10分圏内の好立地に開店した、その名も「もみじ屋」さん!!

 行ってみると、並んでる、並んでる。「れもん屋」ファンの老若男女が行列を作っている。もう、うれしくなって、行列に加わることに。牛歩で進むこと数10分。いよいよお店へ突入!

 お店は「れもん屋」よりも広く、テーブル席も増えた。変わらないのは、店内の活気とおいしそうなあの匂いだ。

 早速注文。大好きな定番メニューがちゃーんと昔風の名前で出ている。うれしくなって勢いでオーダーしたのは、お好み焼きは「ミックス ソバ入」(1400円)で、鉄板焼きは「ぶた肉のしそ巻」(600円)、そして「つぶ貝」(600円)!

豚肉アツアツ、つぶ貝コリコリ

 まずやって来たのが「ぶた肉のしそ巻」と「つぶ貝」。たっぷりのモヤシとともに鉄板に乗っかってやって来た。

あああもう、ほんとうに素晴らしい。

 まず、「ぶた肉のしそ巻」から。

 しっかりジューシーに焼かれたアツアツの豚肉。しその味と実に合う! うれしくなって目をぐるぐるさせたまま、モヤシに突入。肉のおいしい脂を吸い込んで、それでもちゃんとシャキシャキのもやし。これがまた、飲み物にぴったりで……。ビール党だったらたまんない! という一皿。

 続いて「つぶ貝」へ。このコリコリした肉厚のつぶ貝が焼かれると、もう、味は深くなって、コリコリはまだ残って、お口のなかでアフアフホフホフと踊りながら食べちゃう。噛みしめれば噛みしめるほど、もー、うっとりする深い味わい。こちらの鉄板焼きの中では断然いちばん好き!

  • 「ぶた肉のしそ巻」
    「ぶた肉のしそ巻」
  • 「つぶ貝」
    「つぶ貝」

身体の奥まで震わす「ミックス ソバ入」よ

 そしていよいよお待ちかねの「ミックス ソバ入」のお好み焼き。

 鉄板で、手際よく焼かれているのをずっと見ていた。キャベツのしんなり加減と生地の絶妙な焼き加減は変わらない。卵とソースとたっぷりの具材と……全部がそろって、いよいよ目の前に登場だ!!

 どうだろう、この“威容”と、脳を溶かさんばかりの刺激あるソースの匂い。胃や身体の奥まで震わすような、捉えて離さないような、その芳わしい香り!

 全神経が集中しちゃう。

 ヘラを持つ手も若干震えるほど。

 いよいよ、お好み焼きの中にヘラを入れ込む!

 さくっと、割れるように離れる生地。この見事な断面の美しさ。

 おもむろにほおばると……食べた瞬間にソースをたっぷり含んだ生地がふわりとろりととろる!

 そして、そこからほろほろとキャベツがほぐれていくその食感……「れもん屋」と同じ、いや、むしろ進化してる!

 喜びとうれしさと驚きに満ちて、夢中になって食べ進んだ。

  • 「ミックス ソバ入」
    「ミックス ソバ入」
  • おいしい断面が
    震える手でヘラを入れるとあのおいしい断面が

伝統を受け継ぎながら新たな歩み

大林さん
「これからが勝負」と大林さん

 自分のようなファンの輝ける笑顔をいっぱいに受けて忙しく働いているもみじ屋の店長兼社長の大林大吾さん(40)に話を聞いた。

「『れもん屋』が立ち退きでなくなる、ということになったとき、自分とバイトを含めて10人のスタッフをどうしていくか、ということになった。そのときに、新しい店で、今まで以上の味を、と決めたんです」。

 大林さん自身「れもん屋」で20年以上働き、他のスタッフたちもずっと「れもん屋」で一生懸命働いてきた仲間。自分たちの仕事と今までのファンの気持ちを考え、「れもん屋」の味の伝統は守りながら、心機一転新しい店を、ということで4月に合同会社大吾を登記。「れもん屋」の主要スタッフたち10人を率いてこの4月27日に「もみじ屋」を開業した。

「ありがたいことに、当初の予想の倍以上の方にいらしていただき、おかげさまで盛況です」と言う大林さんだが、スタートダッシュのよさにおごることはない。

「これから長いスパンでお店を考えていかなければならないし、工夫も必要。「れもん屋」ではあまり受けなかった予約も受けるし、値段もほんの少しずつだけど下げてるんです。これからが勝負」と語る。

 名店「れもん屋」の伝統を受け継げつつ、新しい店を育てていく。そんな意欲に応えるように、今日も「もみじ屋」さんの前は大行列なのだった。


●広島風お好み焼き「もみじ屋」

東京都千代田区飯田橋4-2-6 アヴァンセ飯田橋
Tel.03-6272-9320
営業時間:平日16:30~23:00、土・日・祝日12:00~23:00
ランチ/水・木・金のみ11:30~14:00
http://www.lemon-ya.com/

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。