陸送時の温度管理の難しさ(2)

ワインに特化した国内全域をカバーする定温輸送ネットワークはない。そこでクール宅急便を利用する業者が増えたが、ワインにとってその温度帯には問題があった。ワインにとって最善の温度帯は、他の商材でも需要があるはずで、導入が望まれる。

クール宅急便に頼らざるを得ず

 結果として、全国への販売を目指すワイン輸入業者のうちの多くは、「クール宅急便は問題なし」とする方向へ舵取りを始めた。現在、ネット上のワイン・ショップの多くが、周年クール宅急便での発送を標榜している理由がここにある。

 それでも、内心、問題ありとの認識のあるネット・ショップの方々は「季節によりクール宅急便にて……」とか「夏季はクール宅急便にて……」というスタンスで発送しているようである。

「クール(冷蔵)宅急便」依存度アップと「このワインは低温コンテナで輸送されたワインです」(“定温”ではなく“低温”)のフレーズは、決して無関係ではないのである。

3温度帯が2温度帯への変更

 また当初、宅急便のクール便は、「+5℃」「-5℃」「-15℃」の3温度設定でスタートしたはずだが、現在は「+10℃以下」と「-15℃以下」の2温度設定となっている。

 ワインの適正温度には「9℃」「11℃」「14℃」「15℃」、それと私が主張する「18℃」と諸説あるが、いずれも10℃前後より上だから、「+5℃」から「+10℃以下」へという変更だけ聞けば、ワインのためにはよい改善を行ってくれたように思えてしまう。しかしどうか。

 以下はまだ直接取材していないので、私の推測であることをお断りしておく。当初の「+5℃」と「-5℃」の設定は、空調設定は0℃の庫内を二つに仕切って、冷蔵品は凍らない状態で、冷凍品は融けない状態でお届けすると言う配慮であったのではないか。そして、現在でも冷蔵冷凍設備自体は変更されていないのではと推測する。もし変更があったとしても、「+5℃」と「-5℃」の間の仕切りを取り払っただけではないだろうか。

 しかし、もし仕切りが取り払われているとしたら、「+10℃以下」の指定で品物を預けたワイン販売者のリスクは3温度設定の時代より増大していることがご理解いただけるだろうか?「+10℃以下」のボックス内には、最低温度-14℃までの預託品が混在する可能性があるのだ。「『+10℃』なら、ワインは最小限のダメージしか受けないだろう」と預託した高級ワインの隣に、-14℃に凍った海産物が横たわっている可能性があるということだ。仕切りは取り払われず、設備は旧来のまま運用されていることを願ってやまない。

 ところで、なぜ2温度の設定に変更したのであろうか? これも推測だが、「+5℃」の表示では不都合な荷主への配慮があったという想像が成り立つ。そして、その荷主とは、恐らくワイン業界だったのではないか。もしもワイン業界側から圧力をかけての変更であるのならば、甚だしい愚挙である。

15℃の輸送はなぜないのか

 冷蔵ではなく15℃前後の中間温度帯のトラックを保有する運送会社は極めて少ない。25年前から現在に至るまで、この温度帯でのワインの全国宅配便システムは実現していない。

 だが、15℃クール宅配便は実現に至っていないが、業者間配送であれば、実は全国ネットを確立している運輸業者が数社存在する。ちなみに、その一つはKRS(キユーソー流通システム。旧社名はキユーピー流通システム)である。しかし、それらの運輸業者がワインの配送を開始したとの情報は、2011年の今日現在でも、私の耳には届いていない。

 業者間だけでも、全国レベルでの返品輸送が+15℃の温度設定で可能となれば、業界の再販不能の不良在庫が激減し、必然的に“だまし行為”(不良在庫が廃棄処分される可能性は極めて低く、無知な者が犠牲となる)も激減するのだが。

 大局的な見地に立って振り返れば、やはりクール宅急便に「+15℃」の温度設定を追加してもらえなかったことは、ワイン業界は言うに及ばず酒類業界全体の発展に大きなブレーキとなってしまったと言える。

 むしろ、ヤマト運輸がなぜ「+15℃~+18℃」の温度帯に参入してこないのかが不思議でならない。この恩恵を受けるのは酒類だけではない。ICチップや絵画・美術品なども結露を嫌う品である。需要は多いはずなのだが。

About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。