食品中の放射性物質は新基準値なら安全と言えるか

さて、国の定める基準値内のものでも不安だという声はよく聞くところだが、これがどの程度のものなのか見ておこう。

“年間1mSv”を超えると危険なのか

「食品中の放射性物質放射性物質の新たな基準値」(新基準値。http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329.pdf)は、「放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限を年間1mSvとし、これを元に放射性セシウムの基準値を設定」している。上限を1mSvとしたのは、「コーデックス委員会の指標が、年間1mSvを超えないように設定されていること」と、「多くの食品の放射性物質の濃度が、時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること」が理由だと言う。

 では、この年間1mSvとはどのような数字なのか。

「放射線から人を守る国際基準――国際放射線防護委員会(ICRP)の防護体系」(首相官邸災害対策ページ)によると、国際放射線防護委員会(ICRP)は、平常時、非常事態、事故後の3つの状況それぞれについて、防護の基準を定めている。このうち平常時には、身体的障害を起こす可能性のある被曝は絶対にないように防護対策を計画し、将来起こるかもしれないがんのリスクの増加もできるだけ低く抑えることを目的としている。その目的の元に具体的に設定している基準に、一般人の被曝は年間1mSv以下(公衆の線量限度)というものがある。

 では、年間1mSvを超えることは即危険ということかというとそうではないようだ。というのは、ICRPの平常時の防護の基準にはもう一種類がある。それが、放射線を扱う業務に従事し、被曝線量を常時観測できる人について定めている被曝線量限度(職業被ばくの線量限度)で、任意の5年間の平均で年当たり20mSv、つまり5年間に100mSvとなっている。なお、この5年のうちのどの1年を取っても50mSvを超えてはいけないという条件が付いている。

 このことから、年間1mSv未満なり以下なりという値は、被曝線量を常時モニターしていない人のために、相当の余裕を持って設定した値だということだ。

安全・危険を断定することはできないが

 では、この年間1mSvという数字をどうとらえるか。あるいは、前回説明した、セシウム137を含む野菜を毎日100g、200日間摂取したときの数値、暫定基準値上限500Bq/kgの場合で0.13mSv、現行の新基準値上限100Bq/kgの場合で0.026mSvという数字をどうとらえるか。

 これはもちろん一人ひとりの判断となるが、筆者は今では心配しないようになった。それは、人は内部被曝も含めて放射能と共に生きていたという事実を知ったことに加えて、現在流通している農産物の新基準値(100Bq/kg)が含まれていたとしても、大した量ではないと判断したためだ。

 平常時にあるカリウム40などによる内部被曝に、セシウム137を暫定基準値上限の500Bq/kg含む野菜を前回説明したように食べれば内部被曝量は倍増することになるではないかという考えもあるだろう。また、こう言うとかえって心配を煽ってしまうかもしれないが、現在全国のすべての農産物の放射能を検査していない以上、場合によっては、基準値を超えたものすら口にする機会もあるかもしれない。

 しかし、調べてみると地球上には非常に放射線量が高い場所もあり、そこでも人々が普通に暮らしているなどのこともわかった。そういった観点から見ると、従来からある内部被曝量の2倍というのは、とくに心配する量ではないと考えている。

 とは言え、以上の試算と考察をもって安全か危険かを断定するつもりもない。と言うのは、低線量被曝の健康に対する影響は、科学的にもまだはっきりしていないからだ。

 まず、現時点で明らかに危険なレベルの放射性物質が農産物として口に入っているわけではないことを理解し、日々の食事自体を過剰に心配するようなことはしないようにした上で、今後の科学、疫学の研究が進むことに期待したい。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】