世界の土 i/ドバイのイネ

ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ
ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ
ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ
ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ

世界中に砂漠はいくつもあり、困ったことにその砂漠が増加しているといいます。私たちが日本列島にいる限りは、その実感はありませんが、海外に出かけてみると、その乾燥した空気から何となく砂漠化もあるかと思うぐらいです。

砂漠では植物は育たないというのが常識

 ところで、砂漠の定義をご存知でしょうか。年間降雨量が250mm以下の地域という定義もあるそうですが、ほかに、雨などが降って地中に浸み込んでいく水の量より、その場所から蒸発していく水の量の方が多い場所、というものがあります。テレビや映画で知っている砂漠は、暑い場所というイメージがありますが、どうもそういうものではなさそうです。

 実際、北海道ぐらいの緯度の位置にも砂漠はあります。中国北西に位置するゴビ砂漠がそれです。このような熱帯に位置しない砂漠は、たとえば南米のアルゼンチンとチリにまたがるパタゴニア砂漠もその一つです。

 では、蒸発量が降雨量を上回る地域ではどんなことが起こるでしょうか。そのような場所では、水の移動方向が私たちの常識とは逆になります。つまり、下から上に移動するわけです。すると、地中に溶け込んでいる各種塩類が地表に向かって移動していくことになります。

 これは、地表に高い濃度の塩を含む土壌を作り、常態化させることを意味します。そのような条件では、植物は育つことができなくなります。これが砂漠化というものです。

 しかし、おかしなことに気付きませんか? 私たちがちょっと理解しにくいことを取り上げておきます。

 先に掲げた、蒸発量が降雨量を上回る場所が砂漠であるという定義ですが、これはよく考えてみると不思議です。雨や雪が降って来ないのですから、蒸発のしようがないと思いませんか?

 この答えは、地球上の壮大な水の動きにあります。砂漠での蒸発は、砂漠の周辺部に降った雨が地中を移動して起こっているというのです。雨の多い日本に住む私たちの感覚ではどうもぴんときませんが、そのことでしか説明がつかないのです。

 そして、大気に供給される水蒸気のかなりの割合が、実は砂漠からのものであるということです。

ドバイ近郊の砂漠土壌でイネの栽培を行った

 さて、地中から空中へという水の動きが繰り返えされて、地表に大量の塩類を含む土を作ってしまう砂漠では植物は育つことができなくなると書きましたが、自然に任せた状態ではそうでも、実は砂漠でも農業は行われています。知恵と工夫で、そういうことは可能なのです。

 今年6月に、アラブ首長国連邦の首都ドバイに行き、ここの都市部から120㎞ほど離れた砂漠の中に造られた栽培試験地に行くことがありました。そこでの調査と栽培状況から、アラビア半島一帯の土壌とそこでの可能性を考えてみます。

 現地の砂質土壌は、鮮やかなオレンジ色に薄茶が混じったような土の色です。よくテレビのニュース番組などでも放映されるので、行ったことがなくてもイメージできる人は多いでしょう。この土壌はアラビア半島すべてにおいて同一な砂漠土壌であると考えています。そうした均質さは、おそらくサハラ砂漠も同様と推測します。

 この土はいわゆる各種栄養成分が多量に集積したものですから、日本の農学の常識としては一切の植物は育つことができないということになります。しかし、私はここで日本のイネを育ててみようと提案して、ポット試験ではありますが、栽培を始めました。

 この実験の目的は、強いアルカリ性を示す土壌において、日本のイネというこれまた真逆の酸性土壌を好む作物を組み合わせたら何が起こるか、それを調べてみようということです。

 試験地のドバイ郊外の土はpHが8.8ということで、イネが求めるpH5.0付近とは、pH適応が1000倍も異なるものです。普通はこういう試験は提案しないどころか、思い付きもしないでしょう。

 しかし筆者は現在、オーストラリアで緑茶栽培事業の技術提供をしている経験から、酸性嗜好作物が日本で一般に論じられているようにアルカリ土壌で全く育たないわけではないという見解を持っていました。

 そして、結果は私が考えていた以上でしたので、ここにご報告するわけです。

ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ
ドバイ近郊の砂漠土壌で試験栽培したイネ

 その結果とは、日本で一般に考えられていることとは全く違うものでした。はっきり言いますが、ドバイではイネは絶対に出来ないという常識であったのが、実際に栽培してみると育った、ということです。

日本で学んだ土壌の知識が通用するとは限らない

 実は、このような日本での常識がひっくり返される事例は、海外の土壌での実地の試験では、これまでにもたびたびありました。こうした実際の結果や、日本国内での常識が世界中のすべてで通用するわけではないということは、食にかかわる方にはぜひ押さえておいていただきたいと思います。今後の世界では、食を調達する場所や方法をさまざまに考えることが重要です。

 ですから、あえてここで具体的な例としてお伝えします。

 もちろん、この試験では用いた灌漑水が軟水でしたから、そのことは大きく影響しているでしょう。しかしそれでも、日本の学術書を読めば、最初からpH不適で各種微量要素欠乏が発生してイネが育つことはない、と考えざるを得ず、はなから試験などしないものです。

 仮に、日本の土壌を強制的にアルカリ性にして行った試験であれば、確かに結果は日本の農業に関する学術の常識通りになったでしょう。つまり、各種微量要素、とくにイネに必要な鉄が激しく欠乏して全くダメ、という結果です。ところが、ドバイの元々のアルカリ砂質土壌で実際に試した結果は違いました。

 今後さらに試験をしなければなりませんが、これは大きな可能性を感じさせるものです。ドバイで、いや、同様の土壌であるはずのアラビア半島の広範囲で、イネなどの作物が栽培できるようになったら、地域や世界の経済や食糧事情はどう変わるでしょうか。

砂漠がむしろ生産力が高い地域である可能性

 また、これは単に不適地で無理に栽培を行うというイメージとは違います。たとえば、同じアラビア半島のオマーンではインゲン豆の栽培が大規模に行われているのが有名です。これは、灌漑水が豊富に使えるという環境が幸いしていると言えますが、その土が砂漠の土であるという点に着目したいのです。

 これまでに何度もお伝えしているように、高温多雨にさらされた日本の土壌は、すでにさまざまな栄養を溶かし出してしまい、土壌に残っている成分はわずかです。ところが、砂漠の土はそのような風化を経ておらず、植物の栄養となる成分を多く残している土壌であると考えられます。つまり、かなりの生産力を秘めていると考えられるのです。

 こういった土壌の見方が日本国内では見られず、むしろ誤解されています。

 もちろん、世界のどこに行っても、栽培に必要な水を現地で容易に確保できるか否かは重い課題です。しかし、土自体の判定は、この例のように柔軟で、ないしは思い切った発想で行うように心がけたいものです。

 日本はこれからも世界のあちこちに食材を求めることを続けなければならないと思います。その産地開発や調達に際しては、現地の土の種類や状態、利用できる栽培法、施肥や灌水の方法やコストなど、さまざま要素が関係して出来上がるものを決めるわけですが、その要因の中でも、やはり大きな位置づけとなるものは土壌です。

 そうした世界各地での栽培にかかわる、土壌など基本となることを、お話していきます。

 相談や質問なども随時お寄せください。

【編集部からのお知らせとお詫び】本稿2ページ目部分、「その結果とは、日本で一般に考えられていることとは全く違うものでした」以下の部分は、当初2012年12月4日掲載分として用意しておりましたが、Webサイトのリニューアル(システムおよびデザインの移行)の際の手違いにより移行から抜けておりました。

このことが読者の方からのご指摘で判明したため、本稿「土を知る、土を使う [89] 」後半として加えました。

みなさまにはたいへんご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げます。

関祐二
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。