土の誕生プロセス

図3
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土は多様であり、とらえどころのない物質です。しかし、土がどのようにできるかを押さえておけば、土を理解する手がかりになります。そして、実際の圃場の調査や分析をする際に役立つ重要な基礎的知識になります。

形態の定まらない土を理解するには

 いよいよ具体的に土の話をしていきましょう。

 昨今は都市の道路や公園はアスファルトで塗り固められていますが、それでも土は庭先や街路樹の根元にありますし、プランターにも土が入っています。普段はそれをしっかり踏みしめることはなくても、山や川原へ出かければやはり土があって、もともと身近な存在であることを思い出させてくれるでしょう。

 ところが、では土とはどんな物質なのかと聞かれて、すらすらと答えられる人は少ないでしょう。同じように自然界にありふれたもの、たとえば水や空気なら、それがどんなものであるか、もっと簡単に答えることができます。水は水素と酸素の化合物でH2Oという化学式で表すことができるだとか、空気はだいたい窒素8割、酸素2割程度で出来ているとかいったことは、中学生でも答えられます。しかし、土はそうはいきません。

 土はどうして理解しにくいのでしょう。それは、土と名前こそあるものの、決まった形態がないからだと言えます。湿った土くれは乾燥すると色を変えて粉のようにもろくバラバラになってしまう。水をたっぷりかけると泥になり、形も色も変わる。そしてよく見ると、土と一口に言っても、なにやらいろいろな粒が含まれている。しかも、所によって土の色も形も一定しない。同じく地表でよく目にするものでも、水や空気のように一様ではありません。

 そこで、この曖昧模糊とした土を理解するための道順として、最初に土の出来方から見ていきます。つまり、土の誕生物語です。

岩石に起こる三つの風化

図1
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図2
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図3
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図4
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 土の誕生の出発点は、岩石の風化です。風化と言ってもイメージしにくいと思いますが、まず身近にある記念碑などの石柱を思い浮かべてみてください。

 最初の段階はどうでしょう。出来たての石柱は角がしっかりしていて表面はピカピカしています。さすが石屋さんが丁寧に仕上げたものだと感心するばかりです。しかし、長い年月を経るとどうなるでしょうか。表面はザラザラになって、角も丸みをおびている。ところどころコケもむしているでしょう。露地にさらされた石は、長い間に様子がかわっていくのです。

 それを岩石の風化と言いますが、この過程がとても大事なので、もう少し詳しく見て行きましょう。4枚のイラストで説明します。

 まず、気象の変化が岩石に影響を与えます。気温が上昇したり強い日差しが岩石に当たると、岩石は膨張します。逆に気温が下がれば収縮します。暑い日と寒い日で、あるいは1日の中でも昼は高温、夜は低温にさらされ、岩石は膨張と収縮を繰り返します(図1)。

 ところで岩石は一般に複数の鉱物の集まりであるため、その成分ごとに膨張率が異なります。このため、膨張と収縮を繰り返していくうちに、岩石の表面には小さなひび割れが出来ていきます(図2)。

 この小さなひび割れには雨水が入り込みます。その水が凍ると膨張し、ひび割れをさらに大きくします。

 こうした作用による岩石の変化を、岩石の物理的風化と呼びます。

 また、ひび割れにたまった水は岩石を溶解する作用も起こします。そして、岩石からカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、ケイ酸など多種の成分を溶かし出し、さながら「岩石のスープ」と呼べるような水溶液を作ります。この作用による岩石の変化を、岩石の化学的風化と呼びます(図3)。

 さて、この段階になると、岩石のひび割れの中にバクテリアやアメーバなどの生物が住み着きます。彼らは岩石のスープに溶解する成分を摂取して活動し、分泌物を出します。この分泌物が、岩石をさらに溶かします。この作用による岩石の変化を、岩石の生物的風化と呼びます。

 このように、元々は硬かった岩石も、物理的風化、化学的風化、生物的風化の三つが複合することで相乗的に風化を進め、やがてはボロボロの状態になっていきます。

光合成を行う生物が土誕生を促す

 こうしてボロボロになった岩石に、さらに大きな変化をもたらすものがあります。それは地衣類、コケ植物、藻類など、光合成を行う生物の登場です。光合成を行う植物は、有機物を生成します(図4)。

 有機物は多様な微生物の栄養となり、彼らの増殖を助けます。また、有機物は他の植物の栄養にもなり、植物を一層旺盛に生育させます。そして植物が生長すれば、そこから生み出される有機物も多くなり、次世代をより旺盛に繁茂させるのです。

 さらに、有機物は動物の栄養にもなります。ですから、光合成を行う植物が登場すると、原生動物のような微細な動物から、虫のようなより大きな動物も集まってきます。

 これらの植物の分泌物や動物の排泄物は、また微生物や植物の栄養となり、同時に岩石の溶解をさらに促進します。

 ここで、岩石が風化してできた物質に、これらさまざまな動植物が分泌・排泄したものや死骸などの有機物が作用することで、特有の黒色を呈する物質が生まれます。これは腐植と呼ばれるもので、水分をよく含み、植物の栄養となる成分を一時的に蓄える力も持っている重要な物質です。

 ここまでくると、岩石の風化もより深く進行していて、ある厚さに岩石とは異なる軟らかな物質ができあがります。それが、私たちが「土」と呼んでいるものです。

 今回は、土の誕生の過程を模式図的に説明しました。実際のプロセスは膨大な時間の中で複雑に進行するわけですが、今回説明したような過程を理解しておくと、実地に圃場の状態を調査したり、その結果の分析値を評価する際に、重要な基礎知識として役立ちます。

About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。