日本の農業は魅力的か?

多くの農家は昨年末の組勘(農協の1年間の金融収支決済)の整理を終えて、春の訪れを待っているのであろうか。雪の降らない地域の方たちからよく聞かれることの1つに「雪が降る北海道の生産者は冬の間、何をしているのですか?」というものがある。

「何もしません」が約半数の答え。11月下旬以降になると根雪になるため、25%の生産者は除雪車の運転手、JRの駅や線路の除雪などのアルバイトをする。あと、残りの25%の人はパチンコなどのギャンブルに励むようだ。

 昨今の農業収入減と作業シーズン中の燃料代金、肥料代金高騰からくる所得の減少を補うために、冬期間のアルバイトに精を出す。例えば、除雪のアルバイトは1日に12時間から18時間も働き、2日に1日程度の勤務を3カ月間行うが、本当の収支決算はどのようなものなのだろうか。

 10年ほど前までは国道の除雪で最低100万円、道道(北海道が建設管理する道路)では80万円、町道でも同じくらいの収入があったそうだが、それが現在では30%もダウンしているという。さて、どうしてこのような結果になったのか? 数年に及ぶ国、地方の除雪予算削減により、12月15日から3月15日までの間に、国道を扱う天下り先の元請け会社が、この5年間で予算が30%ダウンしたわけではない。

 GPS、オートマチック・トランスミッション、全面ヒーター付きガラスを温めるための2台装着のオルタネーター、オートリセット付きブレードの除雪トラック本体や軽油の値段は上がりっぱなしだ。本当の理由は、天下り先である元請け会社の給料はあまり減額されていないので、ほんの少しの予算削減分のしわ寄せはいろいろな経費に消えて、末端の作業員に当然のごとく重くのしかかっているようだ。

 このようなことは北海道庁や町単位でもよくある話で、農業土木を含む公共事業そのものも同じ構造であるとの声を現場からよく聞く。確か下請いじめを防止するための関係法が存在するが、それはあくまでも民間同士の企業取引の話であって、間違っても「元請け会社役員の給与を下請けの皆さんにどうぞ」と言う話ではなさそうだ。今関心が高まっているワークシェアリングなんて言葉は意味がないと実証しているのと同じだ。

 その結果、町道に関して平日はスクールバスが走る前に除雪は終了するようだが、午後からは積極的に除雪作業を控えるようで、土日には積雪が30cmあって、吹雪になっても除雪車はやってこないので、この数年は年に1度の割合で自分たちが幹線道路まで除雪することなる。

 うちでは、トヨタ・カムリを25年間にわたって5モデルを乗ってきたが、最初のモデルを除けばすべ4WD(四輪駆動車)であり、雪道の踏破性と安全、安心の点からも、価格が安からと言ってFF(前輪駆動車)やFR(後輪駆動車)には決して戻れない。日本ハムにいた新庄剛志氏がFRのフェラーリを冬期間乗れなかったのには理由があったのだ。

 25%がギャンブルと書いたが、あくまでも私個人の思い込みであるものの、冬期間や農作業シーズンでも雨天になるとパンチンコ屋の駐車場がすぐ満車になる事実からも、決して間違いではないだろう。ひと冬で100万円スッタ(損した)なんて話はざらに聞く。自分に投資できる海外のバイオの勉強、資格取得、読書、英会話を積極的にやりますなんて話は、全く聞こえてこない。

 私は、酒、たばこ、コーヒー、ギャンブルを嗜まないので、それらを愛する方たちの気持を100%理解することはできないが、農業という自然相手に100%思った通りの収量が得られる保証がないのに、それにもまして効率の悪いパチンコ、やマージャンに興じることに意義を見いだすなどとは考えたくもない。

 ただ、一昨年は政府の「品目横断的経営安定対策」、昨年から名称が変わり「水田・畑作経営所得安定対策」による収入の安定を目指すことができる制度ができたのは、とてもありがたい。それでも、その安定性を踏みにじる生産者も決して少なくないのだ。

 父から営農を引き継いで25年間たつが、この間多くの者が農村社会から離れた。離農者の多くは働き者ではあったが、私の基準からすると正直者という言葉からはかけ離れた存在であった。もし米国にパチンコがあり、これが米国の敵国から来た遊びで、米国内から数十億ドルのお金が、その敵国に流出していることが分かっても、米国民はパチンコに興じることができるのだろうか。以前、米国人をパチンコに連れて行って、感想を聞いたことがあった。「パチンコは本当の意味でギャンブルではない、ルーレットが本当のギャンブルだ!」と言ったが、頭を使うカードゲームはどうなんだと今度聞いてみよう。

 親の話を聞くと、それでも最近は昔に比べて派手に遊ぶ者は減ったそうだ。なぜなら、道路の舗装、河川の改修による水害の低減、通信網の発達、たぶん農協による販売農産物の低価格安定販売などにより、農業自体のギャンブル性が著しく減っからではないか。現在は転作が進み、町全体で水田地帯は30%を切っている。今度は、男と女のギャンブルに真剣に取り組むべきことがある。

 私が子供頃は、地域の農家では秋に誕生日を迎える子供が多いなどと言う話を聞いた。つまり、冬の間は暇でやることもないから…と言うことらしい。とはいえ、現在の農村社会には独身が多いのだ。50歳過ぎて独身はまずいだろう。積極的にお勧めはしないが、隠し子の1人や2人を札幌で囲っているなんて器量や度胸のあるやつもいないようだ。自分が若いころはそのような非道徳的なことなんて、と思ったこともあるが、農業はよくも悪くも家族経営であり、そのDNAが途切れることの意味するものは何なのかは、ご本人たちが一番ご存じのはずだが、最近の産婦人科不足≒人口減少を認めることなのであろうか。

 20年ほど前にある漁村出身の女性と面白い話をした。彼女の住む港からはカムチャッカ沖やアラスカ沖に遠洋漁業に出掛け、数カ月間帰ってこなかったそうだ。帰って来ても、数年に1度は海に落ちたなどの事故で生きて変えってこない者がいた状況だったため、漁船が無事寄港すると、夫や恋人の帰りを待ちわびた漁村では数日間村を挙げてのドンチャン騒ぎをし、無事と豊漁を喜んだそうだ。

 その港は1983年以降の200海里問題で遠洋漁業から近海漁業へと変わり、事故で亡くなる者もなくなり、サラリーマンのようにはいかないが、夕方出かけ翌朝には帰って来ることが可能になった。その結果、独身の漁師が増えたそうだ。彼女が言うには、そんな安定した漁業をする漁師には魅力がないという。海で生きるか死ぬかの修羅場を経験した男たちが帰る浜では複数の彼女がいて、時には大ゲンカがあったそうだが、近海魚業になり、女たちはそんな魅力のない男たちの浜を捨て、都会に引っ越したものが多いそうだ。

 実は農村社会にも同じようなことがあり、10年くらい前まで経営の安定していた米作りの水田に力を入れた青年ほど、独身であることが多い事実も、農村社会には存在するようだ。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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西南農場有限会社 代表取締役 みやい・よしまさ 1958年北海道長沼町生まれ。大学を1カ月で中退後、新規就農に近い形で農業を始め、現在、麦作、大豆作で110ha近くを経営。遺伝子組換え大豆の栽培・販売を明らかにしたことで、反対派の批判の対象になっている。FoodScience(日経BP社)では「北海道よもやま話」を連載。