2017年食の10大ニュース[1]

安倍日本丸は座礁離脱も波高く視界不良は継続

  1. 食品表示法の対応時期迫る
  2. TPP11・日欧EPA大筋合意
  3. 広域食中毒O157ミステリー
  4. 自然は怒っているのか
  5. MOTTAINAIをもう一度
  6. 食品・外食の値上げ相次ぐ
  7. 宅急便の値上げ
  8. レオは人工肉を食べるか
  9. 観光立国への遅々たる歩み
  10. 調理家電に注目

 2017年の新語・流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度」。同じく今年の漢字は「北」が選ばれた。「違うだろー」と感じる年もあるが、今年は素直に納得である。モリカケ問題でつまずいた安倍首相だが、希望の党自滅や北朝鮮問題で復活した。運の強さは小泉元首相以上だ。働き方・エネルギー・年金・改憲等に税制改革が加わった。タバコ価格は先進国中で最安値。増税は民主党でもやれたことで、受動喫煙対策も的確に進めたい。現政権を支持する立場だが、首相の国際的な存在感を頼もしく思う。

 日本の品質神話が崩壊した年だった。神鋼・日産等々の不祥事をどう理解すればよいだろう。しかも、長期間継続していたのだ。オーバースペック・競争過酷というのは、言い訳にならない。とくに原材料を供給する神鋼の罪は大きい。指摘すべきは、公益通報者保護法の制度不全である。

 大手銀行で大幅なリストラが発表された。まだ先のことと考えていたが、ICT活用による業務削減がある。人手不足が叫ばれている。銀行退職者は優秀な人材に違いない。退職した団塊世代や女性活用も進める必要がある。シャープが東証一部に再上場したが、退職者も多かった。その技術者を雇用したアイリスオーヤマが元気である。女性活用には保育士の待遇改善と保育園の新規開設が求められる。社会と地域も協力したい。

 外国人の活用も必要である。技能実習制度が主軸だが、課題が多い。安価な労働者と認識する雇主が多いためである。脱走して不法就労する例が後を絶たない。制度維持のため、同業種なら移動を合法化すべきだ。帰国した実習生を活用して海外進出を果たす成功例を見習いたい。

 安倍日本丸は座礁したが、幸いなことに離脱できた。ただし、依然として波高く視界不良が続く。2018年は国内の制度改革・海外問題に関して正念場となるように思う。

 上記動向に配慮しながら、食関連ニュースを選択した。

1. 食品表示法の対応時期迫る

 2015年4月、食品表示法が施工された。現在は移行期間で従来表示が認められている。期限の2020年3月が迫ってきた。対応すべき事項は多い。これらに加工食品の原料原産表示が加わり、GMO表示の再検討が始まった。小規模業者は栄養成分表示が免除されるが、実質義務化と認識すべき。日本の添加物表示はガラパゴスで、輸出には苦労が多い。

2. TPP11・日欧EPA大筋合意

 これらをまとめた関係者を称えたい。自由貿易は日本の国益である。農業への悪影響を緩和しながら推進すべき。バター入手が容易になることを期待したい。日本はエネルギーと食料輸入が不可欠で、輸出や海外進出は必須である。TPPは米国に参加を働きかけたい。ナショナリズムとグローバリズムの関係は複雑だが、メリットの方が大きいはずだ。

3. 広域食中毒O157ミステリー

 夏季、関東を中心に同じ遺伝子型によるO157食中毒が頻発した。少なくとも11都県に及び、90人超の患者が確認されている。従来から広域食中毒の対策が検討されてきた。今回は対応が遅れ、よい結果を残せなかった。反省として、分析法統一や行政の連携強化が指摘されている。食品テロの視点も加える必要があると考えている。

4. 自然は怒っているのか

 関東の夏季気候は異常だった。気温が低く、梅雨のような状態が継続した。果実の品質が低下し、野菜価格が高騰した。ただし、水稲の作況指数は平年並みで安堵したものだ。海では黒潮の大蛇行が起き、水産物は高値傾向が続いている。年末にはラニーニャが発生し、日本海側は豪雪模様だ。日常生活への影響が懸念される。

5. MOTTAINAIをもう一度

 ワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAI」を世界に広めてくれた。その発祥の地で、食品を粗末にする行為が目立つ。インスタグラムにアップ後、廃棄する例がある。「ビックリマンチョコ現象」を思い出す。回転ずしのシャリ残しも悲しい。小学生と給食を摂る機会があり、「いただきます」「ごちそうさま」を唱和するが、その意味を教えているはずである。

6. 食品・外食の値上げ相次ぐ

 今年も食品値上げが相次いだ。バター、チーズ、小麦粉、かつお節、食用油等がある。廉売対象の豆腐、もやしの価格や表示是正の動きがあるが、廃業も増えている。背景に石油価格上昇がある。外食では人手不足が加わり、「鳥貴族」「すき家」が値上げし、「天丼てんや」も追随予定だ。他の値上げも重なり、物価上昇率が日銀目標2%に達しないのが不思議である。

7. 宅配便の値上げ

 ヤマト運輸・佐川急便が宅配料金を値上げした。背景には荷物数の増加と慢性的な人手不足があるようだ。冷蔵便や時間指定等のサービス強化も一因だろう。宅配ボックスやコンビニ受取りといった改善が進むことをうれしく思う。アマゾンを便利に利用しているが、生鮮食品まで範囲を広げることに疑問を感じる。

8. レオは人工肉を食べるか

 人工肉の活用が、外食等で広がってきた。従来からの(1)植物タンパク以外に、(2)組織培養も実用化に近づいている。昆虫活用の動向も侮れないが、飼料用からだろう。個人的には、(1)の家庭利用を拡大したいと考えている。(3)石油タンパク失敗に見るように、(2)(3)の受容には壁がある。ジャングル大帝レオはこれらで満足するだろうか。

9. 観光立国への遅々たる歩み

 今年のインバウンドは2,500万人超の見込みで、過去最高を更新する。既存業者への配慮は必要だが、個人住居の宿泊やUber導入を推進したい。地方空港活用も課題だ。東京五輪を見据えながら、食品にも動きがある。目立つのは、ムスリムの方に対応したハラール食である。認証食品が増加し、多くの大学食堂でハラール料理が提供されている。

10. 調理家電に注目

 日本が得意だった白物家電の生産は新興国に移って久しい。様子が変わってきており、一工夫した調理家電が面白い。製造はパナソニックへ移ったが「ゴパン」は健在だ。蒸気利用のオーブンやトースター・炊飯器がある。ノンオイルフライヤーも加えよう。ドライフード、炭酸水、ヨーグルト等を作る家電は遊び心があり、人気が高いようだ。


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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。