料理して価値が示される機会

2019フード・エキスポ点描(2)

フード・エキスポのスタートに当たっては、日本および香港の要人と出展者、関係者を集めてのネットワーキングディナーという夕食会が持たれるのが恒例となっている(今回は2日目の夜に開催された)。

牛トレサのしくみに感嘆の声

献立に付けたQRコード(左)をスキャンすると、この料理に使用した和牛の生産履歴と等級が表示された。
献立に付けたQRコード(左)をスキャンすると、この料理に使用した和牛の生産履歴と等級が表示された。

 例年、日本と香港の著名料理人が食材選びから当日の調理まで担当するが、今回は「つきぢ田村」の三代目主人田村隆さん、「日本橋ゆかり」三代目主人野永喜三夫さんらが腕を振るった。

 当日の料理の例を下欄に写真で示すが、今年はとくに分子料理的な技法と絵画的な盛り付けが出席者をうならせていた。

 また、今回の席上でとくに反響があったのは、日本の牛肉のトレサだった。全員に配られた献立表にはQRコードの付いたシールが付いていた。和牛料理が出たとき、農畜産業振興機構の強谷雅彦さんが立ち、スマホを使ってそのQRコードを読み込めば、この牛肉の生産履歴とグレードがわかると説明した。出席者は、これを聞いてさっそくスマホを取り出して試し、実際に情報が示されるのを確かめると、場内は感嘆の声に包まれた。

 もともとは日本国内でのBSE発生を受けて、安全・安心の確保のために取り組まれ、構築された仕組みだが、これが付加価値を生む体験につながることを証明するような瞬間となった。

 ネットワーキングディナーはもともとは親善と交流のために企画されたものだが、香港の関係者に日本の食材をまず贅を尽くし手の込んだ最新の料理として紹介することの意義は大きい。富裕層から始まった流行、高級品として始まった流行はすたれにくいと言ったのは、日本の著名なビジネスパーソンである故・藤田田さんだが、そのことに沿う流れが期待できるからだ。

 フード・エキスポには、このように、展示会場とは別のプロモーション機能が用意されていると言える。

  • 紅ズワイガニのカネロニ生姜柚子風味 焼西瓜、オシェトラキャビア、香味アボカド添え
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  • 北海道産ホタテの冷やし天ぷら ほうれん草翡翠あんかけ 群馬産蒟蒻入り、徳島産すだち・有機紀州南高梅酢風味
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  • 赤だしチキンコンソメスープ 昆布風味トルテリーニと蒸しナマコ入り
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  • マグロのたたきと琉球四角豆スパゲティ ズッキーニの花、燻製茄子、山葵風味タピオカ、醤油煎餅添え
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  • 和牛ロースト朴葉味噌夏野菜添え
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  • 京都宇治抹茶と北海道産牛乳のムース 千葉産梨のコンポート、「なごやん」クランブル、熊本産みかんチップス添え
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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →