店の統合が崩れたときに繁盛は止まる

長く繁盛を持続させている店は、店全体がよく整理されていて、全体が与える印象がまとまっています。外観、内装、什器備品、食卓、食器、ユニフォーム、人の立ち居振る舞いや話し方、そして商品(料理)などなど、これらが全体として一つの統合された印象を作り出しているものです。

繁盛店には統合された世界がある

 ためしに、あなたがよい店だと感じているレストランや老舗と言われている店を思い浮かべてみてください。あるいは、全国展開に成功しているファストフードやファミリーレストランはどうでしょうか。好みの問題はあっても、うまくいっている店やチェーンほど、店にちぐはぐさがないものです。

 一方、長続きしない店は、第一に視覚的な印象が部分ごとに異なっていてバラバラです。たとえば、外観はアメリカ風、内装はヨーロッパ風、だけれどもポリネシアのお土産が飾ってあって、出て来る料理は日本の家庭料理で箸で食べる――こういった店があったら、お客は頭の中が混乱します。あるいは、客単価3000円の店で、ボロボロになった週刊誌やコミックスが置いてあるとか、客単価1000円程度の店でテーブルに純白のクロスがかかっているとかというのも、人を混乱させるものです。

 記者がなじみのない地域で下見をして、メディアで取り上げたい繁盛店を短時間で見つけようとするとき、手がかりとしているのはこうしたまとまりの有無です。私はこのようなまとまりのある店を「統合(integrate)されている店」と呼んでいます。統合されている店では、経営者の考え方がしっかりしていて、経営に主体性や主張があります。

 逆に統合されていない店は、独自の戦略に乏しく、場当たり的な経営になっていることが多いものです。私は「日経レストラン」の記者時代、不振店をコンサルタントと訪ねて改善策を提案するというコラムも担当していましたが、うまくいっていない店の最大の問題は実はここでした。コンサルタントたちも、そもそもそこから直さなければならないと指摘することとなり、店にとってはこれが実に大がかりな取り組みとなるために、なかなか改善に至らないというケースがしばしばでした。何しろ、それは経営者の人生観やいわゆるセンスにまでかかわってくる話だからです。これは一朝一夕に成るものではありません。

 それでも、簡単にそれを解決する方法はあります。名店のマネをすればいいのです。理解できていなくても、ひたすら名店の外観、内装、什器備品、食卓、食器、ユニフォーム、人の動き、話し方、商品をマネれば、とりあえず統合感のある店はできます。繁盛店が現れると模倣店が現れて問題化し、ときに訴訟にまで発展するというのは、このためです。

 しかし、最終的に、その出来上がった店と経営者の頭の中が統合されていないために、やはりうまく行かなかったという例は枚挙に暇がありません。

 実は、マネというものは経営者の頭の中から始めなければいけなかったのです。それが、「マネる」と共通の語源を持つと言われる「学ぶ」ということであり、よく修業と言われるものです。名店での勤務経験は、技術の部分部分を身に付けるというだけのことではなく、優れた統合の手法を身に付けることと言えます。また、食べることが好きでいろいろな店を見て食べ歩いている人は、独自の統合された店を作ることができるものです。だから、繁盛店の経営者たちはよく旅行し、いろいろな店で食事をしようとするものなのです。

 やはり一朝一夕には成らない話ではあります。

外部の変化が店の統合を崩しやすい

 ホテル、とくにシティホテルやリゾートの名店は、統合された店の例と言えます。ファミリーレストランやディナーレストランには、そのようなホテルの模倣が見られるものです。かつて流行した大型喫茶店も、基本的にはホテルのラウンジを模倣したインテリアが多かったものです。

 さて、ホテルでも、その全体の統合は料理にも及んでいなければならないわけですが、近年はここに問題を生じる潜在的な可能性が増えてきました。

 ホテルが長く培ってきた統合された世界は一つの歴史であり、ときどき革新を受容することはあっても、どちらかというとお客に変化を感じさせたくない部分があります。ところが、農林水産物の生産、食品加工の技術、これらの流通は、日々進歩し、抜本的な革新も多くあるものです。そこに齟齬を生じることがあるわけです。

 小型のエビを例に取れば、かつてはそれはシバエビというものが標準でした。しかも、それは国産であるのが普通だった。それは通年安定して供給されるものではなかった。ところが、生産、流通の革新で、同様の大きさで味もよいバナメイエビというものがアジア等の地域で生産され、輸入されるようになった。それは、味、品質としては、ホテルのスペックに合うので当然使おうということになります。ところが、「バナメイエビ」という表示が、ホテルの統合された世界観からはずれるという感覚が残ってしまう。そこで、バナメイエビを使いながらメニュー表に「芝海老」と書いてしまう、「筆が滑ってしまった」ということが起こり得るわけです。

 同様に、インジェクションビーフ(メルティークビーフ)を使いながら、そうは書けない、「○○牛」と書きたい、いや書いてしまった、そういう衝動が起こり得ることは十分考えられます。

 今回問題となった個別のホテルの「虚偽表示」の真相が実際にこのような事情であったと断定する材料を私は持っていませんが、今日のシティホテルが抱えるリスクの一つとは考えられます。いいえ、あらゆる食提供の現場に、このリスクはあるのです。

 こう考えると、名店の統合され完成された世界も、外部の変化に従って修正していかなければならないものだと考えられます。店の統合とは、いったんやっておしまいなのではなく、日々、環境も含めて統合し続ける運動を持続させることに違いありません。環境とは、ここで記した仕入れにかかわる事柄だけでなく、市場すなわちお客のニーズや考え方も含まれます。

 それはすべてを自動的に正直に書く、話すという簡単な話ではありません。正直・正確である上に、しかも店がもともと備えている統合を損なわず、むしろ店の魅力を増すようにできなければなりません。平気でウソをつくことに傾くのでも、単純な合理性に傾くのでも、どちらでもだめです。店やチェーンが、なかなか行政や科学者の言う通りにできない原因の一つは、そこにあると言えます。

齋藤訓之
About 齋藤訓之 289 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →