メニュー虚偽表示問題は今後も発生する

ホテル、百貨店のメニュー虚偽表示が相次いで発覚し問題となっています。この機会に、店で発生し得る“ウソ”について考えていきましょう。

メニュー虚偽表示が発生する土壌

 メニューに実際とは異なる材料等を表示していたことについて、「偽装ではなく誤記である」とする釈明も見られますが、担当者の故意か過失かによらず、お客にとってはだまされたことに違いありません。この種の過ちは表示に関する法令違反(優良誤認等)だけでなく、詐欺であるかどうかという問題も含まれているとも考えられ、刑事事件ともなり得る重大な問題です。

 外食チェーン、小売チェーン、食品メーカーでは、今回問題となったような例は、2000年代に入ってから2007年頃までにいくつもの問題が発覚しました。そして、その都度、当事者企業だけでなく、同業各社がそれぞれに自社の実態把握と法令理解、コンプライアンスの徹底、管理体制の再構築を行いました。

 そうした努力の甲斐あってということでしょう、かつて毎日のように新聞三面下部をにぎわせていた“社告”はずいぶん少なくなりました。ですから、多くのチェーンストアと食品メーカーにとって、今回の問題は“過去”とは言いませんが、経験と学びを通過した事柄でした。

 ところが、一部のホテルや百貨店で、そのような学習と改善が行われていなかったことが明らかになったわけで、これはたいへん残念なことです。

 とは言え、今回の当事者企業がどう責任をとっていくかは別ですが、これを機に、食を扱うビジネス全体は、さらに“正直さ”のレベルを上げていくでしょう。

 ただし、いくら法令やガイドラインを理解し、管理を強化したとしても、現在の食ビジネスのマーケティングの方向性が見直されない限りは、同様のことは今後も発生し得るものと思われます。それはどういうことかと言うと、商品・サービスの訴求ポイントが(1)外部化されていることと、(2)消費段階で検証不可能なものになっていること、この2つの傾向が定着してしまっているということです。

価値創りが産地頼みになっている

(1)商品・サービスの訴求ポイントが外部化されているというのは、付加価値とくにメタ付加価値(第22回参照)が店内ないし自社で生み出されるよりも、産地で生み出されるものに重点が移っているということです。

 店内ないし自社で創出するメタ付加価値というのは、たとえば「あの店の煮物は味の加減が絶妙だ」とか「あの天ぷら屋の揚げ方はカラッとしていてうまい」とかいうもの。同様の調理作業(基礎付加価値)をしながら、他店よりも技術レベルが高いために独自のメタ付加価値が生まれるわけです。

 ところが、近年の商品の訴求ポイントは調理技術の高さよりも材料の優良性に重きが置かれる傾向があります。すなわち「当店の煮物は○○産の特別な野菜を使っています」とか「この天ぷらのエビは○○産の希少なものです」とかといったものです。これは外食に限らず、「○○の塩使用」「○○産オリーブオイル使用」というように、食品メーカーでも進んでいる傾向です。

 それで調理技術・加工技術のレベルが下がっているとは限りません。実際には技術レベルが上がっていても、その点よりも産地や材料の優良性を訴えるほうにより強い関心が持たれているのです。

 そうなる理由はいくつか考えられます。

 まず、素材の味をなるべくストレートに出そうとする調理・加工の流行があります。調理・加工がシンプルであればむしろ高い技術を要することも多いわけですが、味わってもらいたいものが“そのものの味”であれば、“そのもののよさ”を訴えるのは当然です。

 これは、フレンチで言えば1960年代からのヌーベルキュイジーヌ、その後のイタリアンブームを経て強化され、各国の料理人が盛んに日本料理の技術に学ぶ近年さらに強化されていると言えるでしょう。もちろん、その背景には、収穫・漁獲後の調製作業の高度化、コールドチェーンの発達、ロジスティクスの合理化・最適化などの鮮度維持の技術の進歩などがあります。

万人にウケるのに産地の価値は便利

 商品の訴求ポイントが材料の優良性に偏りがちになるもう一つの理由は、大衆化です。

 昔は特別にうまいものを食べるのは、セレブに限られていたのです。高い代金を払えるからですが、お金持ちほどケチなもので、支払った代金に見合うものが提供されたかどうか吟味したり、意に沿わなければ文句も言ったりしたのです。そうして、店を刺激しながら、自身の舌も肥えていった。

 そういう人であれば、説明なしに出されたものを食べただけで料理の善し悪しを判断し、季節や市況や店の人の顔色も観察しながら、「これは○○産だな」などと当てる人もそこそこいたかもしれません。

 ところが、高度成長以降の日本では猫も杓子も外食を楽しむわけです。外食を楽しむ層の数が多い。すると、人数が多いいわゆる“分母が多い”ことによる問題として、味に詳しくないお客が相対的に増えることになります。これは貧富の差の話ではなく、味覚が発達し、いろいろな味に意識が行き届き、それによって自分のセンスで食べ物を選ぶ人というのは、実は少数派なのです。

 では、多くの人が何をたよりに食べ物を選ぶかと言えば、評判(他人の評価)や店や会社が発信する情報(能書き、キャッチコピーなど)です。

 その人たちの心を、素早く、確実につかもうとするのに、「有名な○○産」「希少な○○種」といった情報は好都合です。もちろん、「当社だけの特殊製法」「この道30年のベテランシェフが作る」など、店内・社内で創出するメタ付加価値の訴求も不可能ではありませんが、“特殊製法の御利益”は多くの人が舌で実感できるとは限りませんし、ベテランを揃えるには人件費が上がって大衆店にならないかもしれません。

材料の正体は食べて見破れない

 ところが、ここで問題になるのは、それを実際に食べて「有名な○○産」「希少な○○種」と見抜ける場合は少ない、すなわち提供者が訴求するポイントが(2)消費段階で検証不可能なものになっているということです。

 たとえば、バナメイエビを使った料理を食べて「これはシバエビじゃないぞ!」と言える人がどれだけいるのかどうか。また、野菜を食べて有機栽培かそうでないかを当てることなど、まず不可能でしょう。

 そこで「わからなければいいではないか」と考えれば虚偽、ウソつきとなります。「オレもわからないのだからいいではないか」では、もちろん論外です。

 このように、現代の食ビジネスでは、商品・サービスの訴求ポイントが材料の優良性に重点が置かれる傾向があり、それはお客にとって検証不可能なものである場合が多いのです。

 ですから、虚偽表示の問題は今後も発生し得るというわけです。

 このような市場環境、経営環境の中で、ウソをつかず、評判を落とすことなく、いかに繁盛を維持するか。次回以降、さらに考えていきます。

齋藤訓之
About 齋藤訓之 289 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →