トピックス

バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2015洋酒レポート(3)

FacebookTwitterHatenaLineYahoo BookmarksMixiLinkedInShare

今年もFOODEX会場を歩き回って探し出したとっておきの洋酒をご紹介する。第3回はアジアと東欧から。

幻のコーヒー豆を使ったコーヒーリキュール/「コピ・ルアック コーヒーリキュール」
石川県産、日本酒ベースのコーヒーリキュール(公式サイトより)。

石川県産、日本酒ベースのコーヒーリキュール(公式サイトより)。

 コーヒー好きの間では幻のコーヒー豆として知られるインドネシアの「コピ・ルアク」。ムスク(じゃ香)の香りがするという。特殊な製法のために産出量が極めて少ないことが、その香りと併せてコーヒー好きの話題に上る。そんなコーヒー豆の香りを生かした日本酒ベースのリキュールが国内・石川県のブースに出展していた。

 会場に行っても酒ばかり追いかけている筆者は知らなかったのだが、最近FOODEX事務局では「女子目線で見た魅力的な商品」を各界で活躍する女性たちに選んでもらう「FOODEX美食女子」という企画を毎回力を入れて展開しており、そちらの選考会でこちらの「コピ・ルアク」リキュールが銀賞を受賞したという。

 味にスマートさは欠けるもののコーヒーリキュールにありがちな作り物臭さはなく、ストレートで飲むにふさわしいリキュールだった。

●LGA JAPAN扱い

コラム・おそるべし中国パワー
FOODEX 2015。今年の参加国数は78カ国、入場者数は77000人。

FOODEX 2015。今年の参加国数は78カ国、入場者数は77000人。

 日本向けの食材商談の場であるFOODEXでも、ここ数年は中国の強烈な購買意欲という“猛威”を感じることが多くなった。どちらかと言えば、現地にあるものをなるべくそのまま輸入するスタイルの日本と異なり、彼らは「こうしてくれ」という積極的な注文を出すという話も昨年のFOODEXのアメリカ・ブースで聞いていた。そして今年は、逆に“販売意欲”という形で彼らの熱意に触れることとなった。

 白酒(ひな祭りの「しろざけ」ではなく「パイチュウ」と読む。コウリャンなどを原料とした50度を超える中国特有の蒸留酒)メーカーのブースをのぞいていると、奥へ引き入れられてプロモーションビデオを見せられた。中国湖南省の雲南からさらに離れた山奥の秘境に立ち上げられた近代的な工場で作られるという。「なるほど、中国の山水画にありそうな風景だ」などと思って眺めつつ、中国の白酒特有の「パイナップル香」の原因を尋ねるのだが、通訳が要領を得ず向こうが言いたいことばかりをまくしたててくる。業を煮やして通訳を背中で遮ってメーカーの広報の女性と英語でやり取りをすることになった。

 中国特有(今回のFOODEXに出展していた台湾・金門島の高粱酒もそうだった)の、やたらに金が掛かっていそうなゴージャスなパンフレットも参考に、どうやら麹に香りの秘密があるところまで聞いて納得し、ブースを出ようとしたのだが、広報からサンプルの白酒を渡されて「ぜひ、我が工場を視察しに来てください」と強い調子で頼まれた。

 残念ながら、ものによっては70度近い白酒の強さと特有の香りは、日本で受け入れられるにはかなりハードルが高い。日中平和条約締結の際は田中角栄と毛沢東がマオタイ酒(白酒の一つ。国酒と称される)で酌み交わした場面が繰り返し放映されたものの、パンダと違って日本でブームになることはなかった。

 筆者個人的には決して嫌いな香りではないし、庫で10年、洞窟でさらに8年という長い熟成期間も高級酒の証ではある。たしかに通訳が熱弁していたように、強い酒としては異例なほど喉でも暴れないのだが……。その後、筆者地元の行きつけの店何軒かでサンプルを試飲してもらって聞いた声も筆者の懸念を裏付けるものだった。

 それでも大手のバイヤーの仕入れ担当者ならともかく、書いて伝えることしかできそうもない筆者に「宿泊から食事、交通費まで弊社で持たせてもらいますので、是非!」という広報女性の勢いに、世界中を席巻する中国のビジネスパワーを思い知らされる一幕だった。

セルビアのフルーツブランデー、懐かしい再会/プロモント社
セルビア共和国、プロモント社のショーベル氏に再会。ラインナップが充実。

セルビア共和国、プロモント社のショーベル氏に再会。ラインナップが充実。

 今年もセルビア共和国からフルーツブランデーがやってきた。あまり馴染みのある国名ではないが、東日本大震災では発生直後ヨーロッパで最多の義捐金を贈ってくれていたことは日本人なら知っておくべきだと思う(「バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2014洋酒レポート」(3)参照)。その順位は震災の惨状が欧州に伝わっていく過程で日を経るごとに下って行ったが、震災直後に熱い支援を送ってくれたことを知る日本人は決して多くない。とくに一人あたりの年間所得が6000ドル(約72万円、2009年)の国であると知れば、その事実は決して軽いものではないだろう。

 そのセルビアが昨年、100年に1度と言われる洪水に見舞われたにも拘らず、今年も前回と同じショーベル氏が元気な姿を見せてくれた。今年もラインナップは去年と同様で、今年は化粧箱入りのセットも新しくラインナップに加えられている。筆者が日本人に合うと思ったのはポアール(洋梨)とアプリコット(杏)だがカリンといった変わり種からチェコのスリヴォヴィツェと同様のプラムもあり、ラインナップは豊富だ。

●日本未入荷

石の上にも……/バイローニ社
オーストリアのバイローニ社。愛嬌のあるボックスボイテル型のミニチュア瓶3本セットが土産物としても好評。

オーストリアのバイローニ社。愛嬌のあるボックスボイテル型のミニチュア瓶3本セットが土産物としても好評。

 最後にFOODEXに関する拙稿を毎年読んでいただいている常連読者の方に、ちょっとほっこりする話を一題。毎回出展してもバイヤーが見つからずにいたオーストリア・バイローニ社のアプリコット・シュナップス(ビールの合間に飲む強い酒を示す場合が多いが、ここでは甘さが少なく、度数が強めのリキュール)が、ようやく日本でも買えるようになった。もう顔なじみになった体格のいいフロイライン(お嬢さん)に声を掛けると、奥から日本人女性が現れた。聞けば2年続けてFOODEXに来た努力が功を奏したか、日本のハンガリー料理店が日本の輸入代理店として名乗りを上げたという。

 昨年の拙稿でも触れたが、味以上にボックスボイテル型といわれるコロンとした愛嬌のある形が彼女もこの酒の特性だと思ったらしく、ミニチュア瓶を3本セットにしたものを彼女が提案してバイローニ社に作ってもらったとか。オーストリア土産としてウィーン国際空港に置かれて好評を博しているという。

AZ GROUP ハンガリーフーズサプライ扱い

《この稿おわり》

執筆者

石倉一雄
石倉一雄
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。