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郷に入っては郷に従えの価値

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どの業界と限らず、外資には特有の挙動があります。新たな市場として外国に進出する際、軌道に乗るまでは現地のヒト・モノ・カネによってマイノリティ出資かそれに近い形で現地法人を起ち上げ、当面、本国の本部はキーとなる商品や原料の供給で稼ぐ。その後、その現地法人が優良企業として頭角を現す様子が見えてくると、本格的に資本を入れ、人を送り込み、企業価値自体を本部のものにしようとする。

 資本主義社会では当然採ってしかるべき戦略と言え、国内企業でもそのように動くところはもちろんありますが、直轄体制に組み込む段階でしくじる外資がけっこう多いようです。しかも、これにはある定型的なプロセスがあるようです。

 まず、本国の本部から送り込まれた新経営者は、旧経営者の息のかかった役員・幹部社員の首切りから着手します。一方、コストカットによって当座の実績を作ります。そして、新しい経営方針の下に新たな成長戦略に入る、というのが本部が期待するところですが、その軌道に乗せるのはなかなか難しいようです。

 まず、本部サイドの失敗として、送り込む人材に首切り上手とコストカット上手を選んでしまい、新たな商品やビジネスの形を作る創造性や狙う顧客の心をつかむタレント(才能)の不足には目をつぶってしまうことがあります。

 そういう人は“第一波”として首切りとコストカットが終わったところで退場させればいいわけですが、そうしにくくなる状況が出来ます。まず愁傷烈日の恐怖人事で、イエスマン集団が出来ます。しかも、コストカットで実績を出してしまえば、この新経営者を下ろしにくくなります。そこでビジネスを積極的に伸ばす才能に乏しい新経営者が居座り続けやすくなるわけです。

 この新経営者が取る次の戦略は、本国の忠実な総督つまり本部のイエスマンを演じることです。指令に従い、上意下達のスピード感を見せ、さらに本国の本部の標準、本部で作ったマニュアルを徹底して見せる。こうなると、本部ではなおのこと新経営者を下ろす理由がなくなります。

 しかしこのことは、この現地法人にとって2つの障害となります。

 1つは、会社の仕組みの破壊です。なぜそうなるかと言うと、いかに近代的・現代的な企業でも、すべての業務が完全に標準化(マニュアル化)されていることはほとんどなく、属人的な部分や明文化され切っていない行動体系(企業文化)を少なからず残しているものです。それは、いわば人間を組み込んだシステムですが、それを支える人を入れ替え、マニュアルを徹底することは、組織の円滑な活動を阻害することになります。

 いま1つは、その同じことが、現地法人が前経営者時代までに積み上げてきたローカライズのノウハウとその成果の過小評価ないしは否定を意味するということです。外資でありながら、外国で(すなわち我々が「外資」と呼ぶ企業から見ての外国とは日本のことです)上陸に成功した企業というのは、初期の経営陣が本国の本部と折衝しながらローカライズに力を入れてきた企業です。その前経営陣の努力を否定するということは、それまで築いた顧客との関係をご破算にすることを意味するといっても過言ではないでしょう。

「郷に入っては郷に従え」という諺を、クリスチャンは「ローマにいるときにはローマ人がするようにせよ」(When in Rome, do as the Romans do.)と表現し、それが布教活動の要諦であると信じています。形や表現は地域に合わせる、しかし、伝えるべき神髄なり価値の本質なりを、その地域のやり方を使って表現する――これがローカライズの模範と言えるでしょう。その逆は、原理主義による征服で、これは必ず反発と反抗を呼びます。

 今苦境にある外資系の外食チェーンで着目すべきポイントはそのあたりではないかと私は考えています。また、これから現地法人を本部サイドで買収しようというチェーンも現れていますが、その行方の注視のポイントもそのあたりではないかと考えています。

 そして、実はこのことは、国をまたいだ企業進出に限らず、国内で新しい商勢圏を作ろうとする場合や、国内企業が新事業に参入しようとする場合にも、さらに同族と非同族を問わず代替わりをする際にも、同じように注意すべきポイントなのに違いありません。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →