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至言「農業は運搬業である」

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先週の「スクリーンの餐」でrightwideさんがシャーリー・ヤマグチ(山口淑子、李香蘭)出演のハリウッド映画について書かれ、その中で「東は東」(1952)に描かれた当時のアメリカ西部のレタス農場の収穫作業について触れられました。

サリナスに嫁いだ“李香蘭”
http://www.foodwatch.jp/strategy/screenfoods/54568

 ベルトコンベアとトラクタを組み合わせた合理的な方法が、1950年代にすでに彼の地の農業の常識となっていたことがわかります。日本でも同様の方法を採っているところはあると思いますが、以前訪ねたレタス産地の長野県佐久市望月ではバケットを直接取り付けた100馬力の大型トラクタを圃場に入れて、作業者がそれを追いかけながら収穫するという方法を採っていました。映画の方法に比べると、これは時間当たりの収穫数が上がらない上、重いトラクタが圃場を踏む面積も増えることになります。

 日本の農業の現場を見ると、極めて高度な作業体系を採っている選果等の施設がある一方、ムダの多い作業をしていることに気が付くことがしばしばあります。出荷調製などは手作業によるものが多いわけですが、手作業であればなおのこと、品と人と道具の配置や準備の仕方に凝るべきところ、頻繁に移動したり遠くに手を伸ばしたりする体系が目に付くものです。

コンバインをトラックに固定する高松さん。

コンバインをトラックに固定する高松さん。

 茨城県牛久市の高松求さんの口癖の一つは「農業は運搬業である」というものです。高松さんは「夫婦二人でできる農業」にこだわる一方、その限られたリソースの中で収益を最大化するために知恵を搾ってきました。若い頃、農業を始めるに当たって最初にしたことは自宅・格納庫の接道を変えることでした。また、農機選びだけでなく、農機を運ぶトラックや荷車選びにも凝って来ました。ロープ1本で重いコンバインをトラックの荷台に頑丈に固定する技も持ち、「昔はトラックに乗る人はみんなできたのに」とも言います。格納庫や作業所の4S(整理・整頓・清潔・清掃)にも厳しい。

 それらすべてを一言で表すのが、「農業は運搬業である」という言葉です。収穫物や大型機械を運ぶだけなく、小さな道具一つを運ぶことにも、また作業者自身の移動にも、そこにムダがないか、高松さんは目を光らせてきました。ムダをなくすことが収益向上に資するだけでなく、ムダがあれば季節・時期ごとの作業適期を逃すことにつながり、大損害につながるという緊張感もあります。

 世界で最高のムダ取りの技術を持つのはトヨタです。そのトヨタが農業に参入すると聞いたときに私が期待したのは、農業にまつわるさまざまな作業中のムダを評価しカイゼンする事例をたくさん挙げてくれるはずだということでした。しかし、事情を知る人によると、どうも最近そのプロジェクトはなくなったようです。

 そうなると、農業生産者が自力でカイゼンを考えていくしかないでしょう。しかし、今日の日本では、トヨタだけがトヨタ生産方式を知る会社ではありませんから、製造業の優れた工程管理の知恵を採り入れることはできるはずです。たとえば、最寄りの中小の製造業の社長に依頼して、製造現場の方に農業の現場を見てもらう機会を作るといいでしょう。目からうろこだったり、コロンブスの卵だったり、なるほどというアイデアをたくさんもらえるはずです。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →