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チェーンは社会インフラなり

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 20代の「月刊食堂」編集者時代、毎月1回編集部のメンバーが集まって渥美俊一氏の元を訪ねてお話を聞いていました。氏は日本にチェーンストアを根付かせた指導者の一人とされている人です。

 当時の編集部には、渥美氏に意見だとか、ましてや反論などは言える雰囲気はありませんでした。片や名だたる経営者たちが支持するコンサルタント、片やこちらは昨日今日チェーンストアの勉強を始めた若輩者たち、しかも経営者ではありませんでしたから。

 90年代、ただやはり渥美氏は渥美氏なりの、前の時代の感覚から抜けていらっしゃらないところがあると感じたのは、編集部から「とくに最近エコロジー問題という言葉が使われ出した環境問題について」と話題を振ったとき、渥美氏は真っ先に「エコロジーではなくエンヴァイアロメント問題と言う」と言い直されたときでした。自らを含めた生態系を考える(ecology)時代の前の、自らの条件を既定する環境(environment)として考えるという立場だったわけです。実際、そのとき主に説明されたのは、廃棄物の扱いが悪いために美観を損ねたり臭気をまき散らして近隣住民からの評価を悪くしないようにといった方面の話に終始しました。

 しかし、それはそれで、事業者(店、チェーン)が社会に迷惑をかける存在にならないように配慮せよということで、事業者がいかに社会の役に立つかという経営問題の根幹と表裏をなすものとしてとらえていたということはわかります。

 その姿勢と考え方は、防災について尋ねたときに強く示されました。まず、天災・人災を問わず、災害発生時のマニュアルの整備と経営陣の対応の体制を決めておくことを、渥美氏は非常に重視していました。初期の被害を抑えるためのマニュアルの整備はもちろん、この種の問題発生時は常にトップが陣頭指揮をとるべきもので、従って可能な限り迅速に現場に到着せよということでした。マニュアルで問題を最小限に食い止めながら、マニュアルを超えた問題が発生していくはずだから、経営判断ができるトップマネジメントがそこに立てということです。

 そして、天災等で周囲に困難が発生している場合は、原因が店舗・事業者とは無関係でも店の商品で救援に役立つものはすべて無償で提供し、次いで後方からも物資を供給して提供せよという話でした。

 それは今日で言えばCSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)からの発想ですが、今思い返すと、渥美氏はそこでその事業者のロジスティクスつまり物流の合理性と能力が問われるのだと言っていたように思います。チェーンストアは社会のインフラであり、したがって社会の困難にそれを活かせないのでは話にならないのだと考えていたはずです。

「チェーンストア経営は金の亡者にできる仕事ではない」と、渥美氏が口癖のように言っていたのを思い出します。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →