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分厚く質の高いサブカルの力

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 日本では今年初めに公開となった映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」※のBlu-rayディスクが発売となり、先日ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントと米国大使館・農産物貿易事務所(ATO)共催の試写会が先週行われました。この会では試写に先立ち、映画に登場するさまざまなサンドイッチも提供され、映画が表現した食文化への理解を深めることができました。

※参考:「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」のキューバサンドイッチ/スクリーンの餐 [96](rightwide、2015年03月20日)

http://www.foodwatch.jp/strategy/screenfoods/51791

 ATOによると、現在アメリカではフードトラック(移動販売車。高度な調理機能を備えた車両も多い)がブームとなっているということです。とくにリーマン・ショック以降、店舗で活躍できなくなったシェフたちがフードトラックで起死回生を期すというケースも多く、勢いフードトラックの“グルメ化”が進んでいるということです。それらはTwitterやFacebookなどのSNSでも盛んに話題となり、名店の“追っかけ”現象も起きているとのこと。

 これが、アメリカの新しい食文化として無視できないものとなってきており、固定店舗からはフードトラックの行動を規制させようとする動きも起き、それを受けて最近フードトラックの同業者組織も出来て権利を確保しようとする動きも起きてきているということです。

 この映画は、その現在のアメリカのフードトラックを巡るさまざまな動きをすべて盛り込んだ形で出来ていることがわかりました。

 さて、私がこの映画を観て想起したのは、バブル崩壊後の日本で、フレンチやイタリアンのプロたちがラーメンやお好み焼きといった“大衆食”の分野に流入し、いわば食分野のサブカルチャーの質を引き上げた動きが起こった頃の独特の活気です。

 さらに遡れば、現在日本の食文化として定着しているそば、うどん、すし、天ぷらなどは、いずれも初期の普及を担ったのは江戸時代の屋台で、それらを味わい、思い思いに論評して楽しんだのは、特別大きな可処分所得があるわけではない一般庶民でした。

 簡便に提供され、その多くはフィンガーフード(手づかみで食べる)というものは、専門店のコース料理にくらべれば貧相で取るに足りないものに見えるということはあるでしょう。けれども、普通の生活者が楽しめる食事で、提供者がその品質を競い、質が上がっていく分野が分厚く存在する国・地域というのは、高級料理とはまた別の食の豊かさを持っていると言えるでしょう。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →