予測不可能な予測をする仕事

 奄美以北ではまだ梅雨明けとなっていないこの時期にいくつも台風が発生し、今年も天候の読みにくい年です。農業、外食、小売の現場でも対応に苦心されていることと存じます。

 昨年、農業のビジネス誌「農業経営者」(農業技術通信社)のお手伝いをする中で、古くから伝わる気象予測法を研究している生産者のお話をうかがいました。いわゆる観天望気(夕焼けは晴れ、朝焼けは雨、など)のほか、寒試しや中国の運気論まで用いるということです。

 寒試しは寒中つまり寒の入りから寒明けまでの約30日間各24時間の観測データを取っておいて、それを旧暦の1年間360日に引き伸ばして予測の手掛かりとするもの、運気論は古代中国から伝わる陰陽五行説に基づいて展開された五運六気を暦に適用して考えるというものです。

 いずれも現代科学で正しさが立証されたものではありません。占い、オカルトの類と切り捨てる方もいるでしょう。ところが、このお話をしてくださった生産者ご自身は非常に科学的に栽培を考え、経営管理も科学的に行う方です。

 それでなぜこのように科学で未解明なものに入れ込んだのか、その心をうかがってみた結果、重要なことは自分の心と頭を使って予測を立てる習慣を身に付けることなのだと理解しました。つまり、ある手掛かりに基づいて数値で集められるデータは取り、加えて自身の五感も働かせてその所感の記録もし、それらに基づいて自分の心と頭を使って予測を立て、しかも実際に起こった現実の気象と比較してレビューすることで、自身の予測の評価と改善点を洗い出す。この一連の作業によって、常に環境と気象の動きを感じ考える癖をつけることが大切なのだというようにお話しされていました。

 予測は科学がまだまだ行き届かない分野です。それは株式、為替、もちろん青果や穀物の市場の動きについても言えることですし、外食・小売の客数予測もまたしかりです。科学的アプローチである程度の傾向はつかめても、ある日ある時間の状態を言い当てることは難しいものです。それでもそれらを言い当てることを生業としている人たちは大勢いて、それぞれに独自の尺度や経験に基づく勘=理論化不可能な暗黙知を働かせています。

 巷間、気象については、天気予報がはずれるととかく気象庁や天気予報会社への文句が飛び出すものですが、その方のお話では、科学で100%の結果が担保されない以上、自分で予測を立てなければならず、それでも完全には当たらないその責任は自分で引き受けるべきという趣旨の指摘もありました。

 どの分野に限らず、それが経営者という立場にある人の基本的な姿勢であったと気付き、感服した次第です。

※「天を測る気を読む」(「農業経営者」連載)
http://agri-biz.jp/item/search?item_type=1&author_id=815

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

齋藤訓之
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Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →