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金を狙えばブランドは育たず

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 長年ブランド構築やブランド戦略に携わる中で、セミナーにいらした方や質問があってご連絡をくださる方の中に、根強い誤解があると感じることがあります。それは、強いブランドを持っていれば、より高い価格を設定したり維持したりできる、従ってより高い利益率を設定したり維持したりできる、というものです。

 確かにヨーロッパの高級車や数十万円あるいはそれ以上の価格のバッグは、強いブランドのもとに売られていると言えるでしょう。しかし、そうした商品は熟練の職人による手仕事に人件費をかけていたり、相応に良質な材料を使っているものです。さらに、販売店の設備にも相当な資産なりコストなりが振り向けられているものです。

 一方、ファストフードや清涼飲料水には強いブランドとして学者やコンサルタントによく取り上げられるものがありますが(前者については今苦戦している企業があるわけですが、この局面に至る前は代表的な優良企業でした)、それらの主力商品の価格はアフォーダブルプライスで、いわゆるワンコイン以下に設定され、一般に競合品と同程度の価格になっています。ですから、彼らはブランドの強さが価格の高さの理由になるとは考えていないことがわかります。

 ブランドが強ければ、高い価格・高い利益率を実現できると考えている人は、おそらく付加価値高=利益高と誤解しているか、その等式が成り立たないことを忘れているのです。付加価値高の計算方法はいくつかありますが、「中小企業庁方式」によれば、それは売上高から外部購入価値を引いた残りということになります。

《中小企業庁方式の付加価値》
付加価値=売上高-外部購入価値

 その中身が何であるかは、「日銀方式」で計算するとわかりやすい。すなわちそれは、経常利益と人件費と貸借料と減価償却費と金融費用と租税公課を足したものだということです。

《日銀方式の付加価値》
付加価値=経常利益+人件費+貸借料+減価償却費+金融費用+租税公課

 つまり、高いブランドが高い付加価値を生んだとしても、それは必ずしも経常利益の高さを保証するものではありません。人件費や家賃や設備により多くのお金が回り得るからです。

 また、優れた経営者たちは、よく「会社がいただく利益もお客様のために使うもの」ということを言います。そう言う人の会社は、利益率を高く設定しても、それは研究開発費や次の設備投資に向けたり、事件・事故・災害等の非常時にも事業を維持するために計画的に温存しているものです。

 より高い価格の商品を扱うには、強いブランドが必要だということは言えるでしょう。しかし、強いブランドがあれば必ず高く売れるということではありませんし、高い利益率を設定してもいいということにはなりません。

 今の日本の消費者は目が肥えていますから、「安物を高値でつかまされる」ことには敏感です。また、研究開発にお金をかけなかった結果、独自の工夫やノウハウが生きていない商品ばかりが並ぶようになれば、それらはいずれ陳腐化し、売上高は落ちていくでしょう。また、事件・事故・災害等で簡単に欠品するようでは、そもそもブランドが成り立ちません。

 ブランドは売上高や利益高という表面的な数字を追っていてはなかなか構築も維持もできないものです。それを持ち育てる意義は付加価値を高めるためであり、付加価値は人気つまり客数あるいは販売数を引き上げるためにあると見るべきでしょう。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →