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ムスリムの作法は当人に聞け

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 今週6月18日から7月16日までは、ムスリム(イスラム教徒)にとってはラマダーンとなります。ラマダーンとはヒジュラ暦(イスラム暦)の第9月の名です。ヒジュラ暦は太陰暦ですが、閏月を設けない暦法であるため月日は毎年11日程度繰り上がっていきます。

 ラマダーンの期間、ムスリムは日の出から日没まで食事を摂りません。ただし、旅行者、病人、妊産婦、乳幼児など食事の制限が難しい合理的な理由がある場合は、事情によって日中の食事の制限を延期ないしは見合わせることがあるということです。そう聞くと、他の宗教で行われる断食よりも何か融通の利くもののように感じるかもしれませんが、ムスリムにとってラマダーンは、この宗教の初期の頃に思いを馳せ、礼拝し、神を強く意識する期間で、非常に大切にしている期間・行事であるということです。

 さて、今、日本は東京オリンピック招致のプレゼンテーション以来「おもてなしの国」であると自ら“規定”している風があるわけですが、なにぶん国内にムスリムが少ないため、とくに彼らの礼拝や食事にどう対応・協力したものか、お店では悩んだり戸惑う場面も出てきているでしょう。

 いちばん確実なのは、当人に何を望み何を望まないかを聞いてみることです。そして、お店でできることとできないことをその人に正直に説明し、実際にお店を利用してもらうかどうか、また、どのように利用してもらうかを、彼ら自身に判断してもらうことです。

 このとき、昨日来たムスリムと、今日来たムスリムが同じ考え方を持っているとは限らないことに注意が必要です。

 一般に、日本の飲食店がムスリムに対して最も注意すべきことは、お店がふだん豚肉とアルコールを取り扱っているかどうかをきちんと伝えることです。多くのムスリムにとって、そうした店は利用すべきでない店となります。しかし、たとえば日本すなわち彼らにとっての異教徒の国を旅行中で、近隣に他のふさわしい店もなく、したがってその店を使う以外に空腹から逃れることができないとなれば、ムスリムによってはその店を利用しても許されると判断することがあります。その場合でも、ではふだん豚肉やアルコールの提供に使っている食器を使ってもやむを得ないと考えるのか、使い捨て容器を用意してほしいのかなど、ムスリム一人ひとりにとって自分の信仰が守られる方法に違いが出ることはあり得ることです。だから、毎回一人ひとりに説明し、本人の考え方を聞くことが大切なわけです。

 ムスリムは皆同じだろうと十把一絡げにとらえることはできません。そしてもちろん、隠し事や嘘があってはいけません。それはお客を裏切ることであり、欺瞞が露見して怒らせたり悲しませたりということが仮になかったとしても、その人を陥れ侮辱することに外なりません。

 考えてみれば、このように相手の事情と心に寄り添うことはおもてなしの基本であるとわかるでしょう。そしてそこには、リスクコミュニケーションを考える上でも重要な示唆があると気付くでしょう。最も重要なことは、まず事実をありのままに明らかにすることです。その上で、採用の可否はあくまで利用者が判断する事柄だということです。その上で、提供者と利用者の間で価値観を共有できるか否かというのは、それ以前の事柄とは全く別の、次元の異なる問題なのです。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →