宅配便とホテル・先端の異常

先週は2種3件の大きな不祥事の発覚がありました。

 一つはヤマト運輸の「クール宅急便」で、常温での仕分けが複数箇所で行われていたことが「同社関係者」によって明かされたことです。

 “野積み”やそれに類する取り扱いによる温度の逸脱はコールドチェーンの中で常に発生し得るハザードであり、クリティカルな管理点です。同社では「一部でルール通りに運用されていない事実がありました」としていますが、ソフト面に問題があったことは否めません。

 また、仕分け中の保冷コンテナの開けっ放しが問題とされていますが、報道で伝えられた映像を見ますと、それをその都度開閉したとしても庫内温度が適正に保たれないであろうことは、業務で冷蔵庫・冷凍庫を使用している人には容易に想像がつきます。今後は低温仕分場の増設などハード面の改善も必要となってくるでしょう。

 そして、これに関連した食中毒や商品価値喪失等の事故がこれまで目立つ形で報告されていないことにも注意を向けておくべきでしょう。多くは荷主が荷に保冷剤等を入れる等を行っていたことで救われてきたのでしょう。しかし、ブランド回復のためには、“泣き寝入り”がなかったかどうか等をヤマト運輸自身が調べてみる価値があるでしょう。

 いずれにせよ、個人だけでなく商品の送付でも便利に使われていた「クール宅急便」が実は“プロ仕様”ではなかったことは、食品を扱うビジネスにとっては大きな衝撃です。利用する企業の中には荷に温度ロガーを入れてインスペクションを行い、かねてこのサービスの限界に気づいていた企業もありますが、多くの利用者はそうではありません。

 そして、今回ヤマト運輸に向けられることとなった不安と失望は、実は宅配便全体に対しても向けられているものと受け止めておく必要があります。宅配便を扱う各社には、今後自社物流の完成度の説明・立証が求められることになるでしょう。

 もう一つは、ホテルでメニュー表記と異なる食材が使われていた問題です。

 まず、阪急阪神ホテルズの社内調査で「8ホテルおよび1事業部の23店舗、47商品で、メニュー表示と異なった食材を使用してお客様に料理を提供していた事実が判明」しました。

 その後さらに、阪急阪神ホテルズと同じく阪急阪神ホールディングスの子会社である阪神ホテルシステムズが経営する、ザ・リッツ・カールトン大阪でも、複数の食事について同様の問題があったことが発覚しました。

 阪急阪神ホテルズの記者会見の中では、記者が偽装かどうかを問い、ホテル側が偽装ではなく誤記であると説明する場面がありましたが、これはピンボケに見えます。社会面の記事のネタとしては重要なポイントなのでしょうが、司法以外がそのいずれであったかの判断をすることにあまり意味はないでしょう。

 仮にこれが食中毒であったなら、汚染されたものをわざと提供しようと誤って提供しようと、いずれであってもプロにあるまじき行為であることにかわりありません。

 適切な取引や作業が行われているか、管理者や現場担当者の知識の低下やモラルの低下が起こっていないか、これらはあらゆるビジネスでマネジメントが常に神経を尖らせていなければならないことです。“偽装”とそれに類する事件の背景には、常に故意と過失を問わずその不徹底や怠慢があると考えるべきでしょう。

 この事件についても、利用者が抱くこととなった不安と失望は、これら特定のホテルだけでなく、ホテル業全体に対しても、あるいは外食産業に対しても向けられているものと受け止め、対策を打っていく必要があるでしょう。

 実際、ホテルでの同様の不祥事は今回発覚したホテル以外に、今年はじめ過去にもありましたし、食にまつわる“偽装”の問題は改めて記すまでもなく例が多く、しかも経営に深刻な打撃を与えたものも少なくありません。

 他山の石以て玉を攻むべし。昨今は、厳しい市場環境の中での客数確保と、徹底したコストダウンと、両立が容易ではない要求が現場に向けられているケースが、ホテルにも外食にも食品メーカーにも、業種を問わず広く産業全体に多々見られます。そのことが今回問題となっているのと同様の誤りにつながらないか、そこを警戒し、経営方針と経営管理のあり方を見直すきっかけとすべき事件と見たいものです。

 なお、言わずもがなではありますが、この要求とは、社内、グループ内で垂直的にされるものだけでなく、発注企業から受注企業へ、企業・グループを超えて向けられるものも無視するわけにはいきません。

 宅配便のパイオニア、信用が財産のホテル、これらリーディングカンパニーと目されてきた企業にプロらしからぬ欠陥が見つかったことは、今日の日本の産業界に蔓延している異常を浮き彫りにしているように見えてなりません。

※参考:

ヤマト運輸「弊社『クール宅急便』の常温仕分けに関する報道について」
http://www.kuronekoyamato.co.jp/info/info_131025.html
阪急阪神ホテルズ「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関するお詫びとお知らせ」(PDF)
http://www.hankyu-hotel.com/hhd-group/hankyu/upimg/news/corp/20131022-122.pdf
阪急阪神ホテルズ「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関する再発防止策と社内処分について」(PDF)
http://www.hankyu-hotel.com/pdf/press131025.pdf
阪急阪神ホールディングス「株式会社阪急阪神ホテルズがメニュー表示と異なった食材を使用していた件について」(PDF)
http://holdings.hankyu-hanshin.co.jp/ir/data/KS201310241N1.pdf
ザ・リッツ・カールトン大阪「当ホテルで判明した一部メニューの誤表記についてお詫びとご報告」
http://www.ritz-carlton.co.jp/information/6911.html

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

齋藤訓之
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Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →