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おいしそうなどら焼きで決定

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前回に引き続きの年末恒例企画。年間1,000本以上の鑑賞本数を誇る私rightwideが、今年公開された映画の中から印象的な食べ物や飲み物が出てきた作品を厳選し、ベスト10として発表する。今回は邦画編である。

【選定基準】

2015年1月1日~2015年12月31日に公開(公開予定)の作品で、

  • 食べ物や飲み物の「おいしそう度」
  • 食べ物や飲み物の作品内容への関連性
  • 作品自体の完成度

の3点を加味して選定した。

※前年からの変更点……同点を少なくするため★(1.0点)に加えて☆(0.5点)を新設した。

順位タイトルおいしそう度作品との関連性作品の完成度合計
1あん★★★★★★★★★★★★★★★15
2岸辺の旅★★★★☆★★★★★★★★★★14.5
3海街diary★★★★☆★★★★☆★★★★★14
4映画 深夜食堂★★★★★★★★★★★★★☆13.5
5さいはてにて やさしい香りと待ちながら★★★★☆★★★★☆★★★★13
6夫婦フーフー日記★★★★☆★★★★☆★★★☆12.5
7俺物語!!★★★★★★★★★★★★12
8はなちゃんのみそ汁★★★★☆★★★★☆★★☆11.5
9一献の系譜★★★★★★★★★★★11
10たまゆら 卒業写真 第2部 響 ひびき★★★★★★★★☆★★10.5

第10位

「たまゆら 卒業写真 第2部 響 ひびき」の創作スイーツ

 今年のトピックとして「ラブライブ!」のヒットに代表されるOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)を含むアニメの映画興行全体に占めるウエイトの拡大が挙げられる。毎週のように多種多様なアニメの新作が封切られ、それぞれに若年層を中心とするコアなファンがいるため興行成績が手堅く、連続物としてのシリーズ構成や週替わりの入場者特典がリピーターを誘導する。さらにメディアミックスや関連グッズの売り上げも含めると相当な商業的効果が見込めるというビジネスモデルである。

 また「心が叫びたがってるんだ」の秩父や「ガールズ&パンツァー」の大洗といった観光振興を目的とした地域とタイアップした“ご当地アニメ”のリリースも最近の傾向だ。広島県竹原市を舞台にしたTVアニメの続編となる劇場版4部作「たまゆら 卒業写真」シリーズは、この両方の要素を兼ね備えた作品と言えるだろう。

 本作は高校3年生になった写真部部長の沢渡楓(声:竹達彩奈)とその幼馴染みの塙かおる(声:阿澄佳奈)、お菓子作りが好きな岡崎のりえ(声:井口裕香)、大崎下島の旅館の娘の桜田麻音(声:儀武ゆう子)の4人が卒業に向けて将来への期待を不安を抱えながら過ごす1年を描いた青春ドラマである。

 今回は兄にプライドを傷つけられスイーツ封印を宣言しながら夢を諦め切れないでいるのりえの背中を他の3人が「スイーツ食べ納め」と称して押してやる友情物語で、堰を切ったように次々と繰り出されるのりえの創作スイーツが見どころとなっている。

公式サイト:http://tamayura.info/

第9位

「一献の系譜」の日本酒

 南部(岩手県)、越後(新潟県)、但馬(兵庫県)と並ぶ日本4大杜氏の一つである石川県能登半島出身の能登杜氏たちが、理想の一献を醸すために技と想いを継承していく姿を追ったドキュメンタリー。2009年にユネスコの世界無形遺産に登録されたアエノコト(田の神信仰)に象徴されるこの地の先祖から受継いだ自然と共生する田畑を守るために始まった酒造りの歴史と、目に見えない菌と向き合う精巧で複雑なそのプロセスを、現在の吟醸酒の礎を築いた「能登杜氏四天王」を中心に紐解いていく。

公式サイト:http://ikkon-movie.com

第8位

「はなちゃんのみそ汁」の味噌汁

 乳がんによって33歳の若さで夫と幼い娘を残して亡くなった女性のブログを基にしたエッセイを原作としたヒューマンドラマ。苦しい闘病生活の中で藁をもすがる思いで試した民間療法で薦められた玄米と味噌汁の粗食と一時的に症状が好転したことの因果関係は明らかではないが、認知症の母と息子の絆を描いた「ペコロスの母に会いに行く」(2013)の脚本を担当し今回が初監督となる阿久根知昭は、闘病生活のハウツーよりも死を意識した母が娘に味噌汁作りを通して「しっかり食べて、しっかり生きる」ことを伝える家族の約束の物語に仕立てている。

公式サイト:http://hanamiso.com

第7位

「俺物語!!」の豚味噌おにぎり

 河原和音原作、アルコ作画による「別冊マーガレット」連載の漫画の映画化。いかつい容貌と怪力で男子には慕われながらも女子には全くモテない剛田猛男(鈴木亮平)が、ナンパされそうになった大和凛子(永野芽郁)を助けたことから恋が芽生えるという「美女と野獣」的ストーリーである。

 凛子が「男は胃袋でつかむ」が如くチーズケーキからザッハトルテ、チョココロネと猛男に差し入れの猛アタックをかけた末に彼の母ゆり子(鈴木砂羽)から聞き出した猛男の大好物の豚味噌おにぎりでとどめを刺す、若さゆえの暴走ぶりが楽しめる。

 猛男役の鈴木亮平はTVドラマ「天皇の料理番」で20kg減量しながら本作では30㎏体重を増やすというロバート・デ・ニーロさながらの役作りをしたとのことで、その肉体改造のメニューも気になるところである。

公式サイト:http://ore-movie.jp/

第6位

「夫婦フーフー日記」のハンバーガー

 結婚直後に妻の妊娠と大腸がんの発覚が立て続けに起こった夫婦の闘病ブログから生まれた「がんフーフー日記」(小学館刊)の映画化。設定は「はなちゃんのみそ汁」に似ているが、「婚前特急」(2011)でエルンスト・ルビッチ風のソフィスティケイテッド・コメディを現代日本に移植して見せた前田弘二監督は、今回も1940年代ハリウッドの天国・幽霊もののように、ダンナ(佐々木蔵之介)の幻影であるヨメ(永作博美)の黄泉がえりをコメディタッチで見せる。そして2人の出会いの時にヨメがうまそうにかぶりついていたハンバーガーが、自由奔放な彼女のイメージとして繰り返しダンナの目の前に現れるのである。

公式サイト:http://fu-fu-nikki.com/

第5位

「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」のヨダカ珈琲

「一献の系譜」と同じ石川県能登半島を舞台に「夫婦フーフー日記」の永作博美が珈琲店主を演じ、台湾出身のチアン・ショウチョンが監督したヒューマンドラマ。奥能登の珠洲市の岬に建つ舟小屋に、幼い頃に別れたまま漁に出て行方不明になった父親の面影を求めてふらりと現れた岬(永作)が、舟小屋を改装して「ヨダカ珈琲」を開き、金沢の夜の仕事で育児放棄寸前のシングルマザーの絵里子(佐々木希)の子供たちと交流を深めていく。

 最初は岬に反感を持っていた絵里子がある事件の後、本格的な焙煎機FUJI ROYALでローストされた特別な1杯を彼女と2人で飲みながら、ゆっくり流れる時間の中で打ち解けていく演出が見事である。

公式サイト:http://www.saihatenite.com

第4位

「映画 深夜食堂」のたこさんウィンナー

 本連載第94回参照。安倍夜郎の漫画(小学館「ビックコミックオリジナル」連載)を原作に、2009年からTVドラマとして放映されているシリーズの劇場版である。

 新宿歌舞伎町のはずれにある「めしや」を舞台に「ナポリタン」「とろろご飯」「カレーライス」の3つのストーリーで構成されるが、いちばんおいしそうだったのは常連客でヤクザの竜(松重豊)のお気に入りである「たこさんウインナー」であった。豚汁定食に酒類は3杯までというシンプルなメニューながら、できるものなら何でも作るというマスター(小林薫)のわけありな雰囲気もよい。

公式サイト:http://www.meshiya-movie.com/

第3位

「海街diary」の梅酒としらす

 マンガ大賞2013を受賞した吉田秋生原作(小学館「月刊フラワーズ」連載)の映画化で、今年の第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されたことでも話題になった。「若草物語」<若草物語> (角川文庫)「細雪」のような美しい四姉妹という伝統的とも言える設定と、是枝裕和監督の演出のツボである即興性が両立した作品である。

 父親が離婚と再婚を繰り返した挙句複雑な状況に陥った鎌倉の旧家にあって庭の梅の木から採れる梅を使った梅酒だけが祖母の代からの不変のものであり、家族の絆の象徴となっている。3人の姉(綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆)に引き取られた腹違いの四女すず(広瀬すず)が、地元特産の生しらすごはんやしらすトーストを振舞われながら、かつて父と食べたことを言い出せない微妙な心境の描写も印象的である。

公式サイト:http://umimachi.gaga.ne.jp/

第2位

「岸辺の旅」のしらたま

 本連載第112回参照。湯本香樹実の小説の映画化(文春文庫刊)で、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で黒沢清監督が日本人として初めて監督賞を受賞した作品である。

 妻(深津絵里)の前に行方不明のまま死んだ夫(浅野忠信)の幽霊が、彼女が作るしらたまを契機に現れるシチュエーションは「夫婦フーフー日記」に似ているが、こちらは数多くのホラーを手がけた黒沢監督らしく、怪談的なエピソードを織り交ぜながら夫婦の永遠の別れとなる旅を描いている。

公式サイト:http://kishibenotabi.com/

第1位

「あん」のどら焼き

映画「あん」より。どら焼きを作る徳江(樹木希林)

映画「あん」より。どら焼きを作る徳江(樹木希林)

 本連載第102回参照。ドリアン助川の小説(ポプラ社刊)を原作にした河瀨直美監督作品で、本作も第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオープニング上映された。奇しくもカンヌ絡みの作品がベスト3に並んだが、順位を分けたのは単純に樹木希林演じる元ハンセン病患者の徳江が作るどら焼きがいちばんおいしそうだったから。

 アート系と認識されていた河瀬監督が樹木をはじめ永瀬正敏や市原悦子といったプロの俳優を得て、万人に受け入れられる感動作に仕上げている。

公式サイト:http://an-movie.com/

印象に残った“裏ベスト8”

 今年の日本映画はこの他にも

  • 「千年の一滴 だし しょうゆ」の懐石料理(本連載第91回
  • 「リトル・フォレスト 冬・春」の四季折々の味覚(本連載第95回
  • 「エイプリルフールズ」の芋けんぴ(本連載第99回
  • 「種まく旅人 くにうみのの郷」のおにぎり(本連載第104回
  • 「海のふた」のかき氷(本連載第107回
  • 「和食ドリーム」のSUSHI(本連載第108回
  • 「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」のコメとムギ(本連載第110回
  • 「起終点駅 ターミナル」のザンギ(本連載第114回

など、飲食物が重要な役割を果たす作品が例年にもまして多く、選定には苦労した。連載でカバーしきれなかった作品を優先したので、これらの作品もベスト10に決してひけを取るものではないことを申し添えておく。

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。