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旅・料理・映画が満載の傑作

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皆様お待ちかねの年末恒例企画、年間1000本以上の鑑賞本数を誇る私rightwideが、今年公開された映画の中から印象的な食べ物や飲み物が出てきた作品を厳選し、ベスト10として発表する。まずは洋画編から。

 総評として、今年は昨年に比較すると飲食物が“ズバリ主役”というような映画は少なかったが、食べ物や飲み物をストーリーに巧みに絡めた作品が多く、どれをご覧いただいてもお楽しみいただけると思っている。

【選定基準】

2015年1月1日~2015年12月31日に公開(公開予定)の作品で、

  • 食べ物や飲み物の「おいしそう度」
  • 食べ物や飲み物の作品内容への関連性
  • 作品自体の完成度

の3点を加味して選定した。

※前年からの変更点……同点を少なくするため★(1.0点)に加えて☆(0.5点)を新設した。

順位タイトルおいしそう度作品との関連性作品の完成度合計
1イタリアは呼んでいる★★★★★★★★★★★★★★★15
2シェフ 三ツ星フードトラック始めました★★★★★★★★★★★★★★14
3ステーキ・レボリューション★★★★★★★★★★★★★13
4A Film About Coffee(ア・フィルム・アバウト・コーヒー)★★★★★★★★★★★★☆12.5
5料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命★★★★★★★★★★★★12
6インヒアレント・ヴァイス★★★★★★★★★★★11
7鰻の男★★★★★★★★★★☆10.5
8ボヴァリー夫人とパン屋★★★★★★★★★★10
9グッド・ライ~いちばん優しい嘘~★★★★★★★★★☆9.5
10マルガリータで乾杯を★★★★★★★★★9

第10位

「マルガリータで乾杯を」のマルガリータ

 近年日本で公開されるインド映画は、「きっと、うまくいく」(2009)や「スタンリーのお弁当箱」(2011、本連載第53回参照)、「マダム・イン・ニューヨーク」(2012、本連載第78回参照)、「めぐり逢わせのお弁当」(2013)等、従来の歌と踊りのマサラ・ムービーという枠にとらわれないものがいくつか公開されている。

 本作もその流れの一つで、障がい者の性というインド社会はもちろん、万国共通に避けられてきた問題に踏み込んだ意欲作である。

 ジョナリ・ボース監督の従妹をモデルにしたという主人公のライラ(カルキ・ケクラン)は、脳性マヒによって車椅子の生活を送りながら作家になりたいという夢を持つ前向きな女子大生で、バンドをやっている同級生ニマ(テンジン・ダラ)との恋愛にも積極的である。

 ニマと別れた後はアメリカの大学に留学し、新たなクラスメイトのジャレット(ウィリアム・モーズリー)と初体験を済ませた後、活動家の女子大生ハヌム(サヤーニー・グプター )と同性愛の関係を持つなど、障がいを感じさせない行動力を発揮する。

 そんな彼女がジャレットたちと行ったバーで飲んだカクテル“マルガリータ”は、大人への第一歩を踏み出す象徴とも言える小道具として機能している。

公式サイト:http://www.margarita.ayapro.ne.jp/

第9位

「グッド・ライ いちばん優しい嘘」のピザ

 1983年に始まった第二次スーダン内戦で親を失い故郷を追われた子供たちのヒューマンドラマ。前半は、ケニア国境の難民キャンプを目指して戦火の中を飢えと渇きにさいなまれ、仲間とはぐれながら砂漠を横断するサバイバルを描く。後半は、その13年後に難民キャンプで育った「ロスト・ボーイズ」と呼ばれる孤児たち3600人をアメリカ各地に移住させる計画によってカンザスシティにやってきた、マメール(アーノルド・オーチェン)、ジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)、ポール(エマニュエル・ジャル)の3人の、“あの時の子供たち”のその後を描く。

 勤務先の大型スーパーに並ぶドッグフードや賞味期限切れの食品廃棄にショックを受け、電子レンジで温めるだけで食べられるピザを魔法の食べ物として神に感謝する姿に、彼らの世話を命じられた地元職業紹介所の女性キャリー(リース・ウィザースプーン)は当初文化の違いを感じて戸惑うが、次第に彼らの純粋さに打たれ、13年前に行方不明になった仲間探しに付き合っていく。

公式サイト:http://www.goodlie.jp/

第8位

「ボヴァリー夫人とパン屋」のパン

 フランス・ノルマンディー地方を舞台に、パリで出版社に勤めた後に故郷に戻ってパン屋を営む文学好きのマルタン(ファブリス・ルキーニ)は、隣に越してきたジェマ(ジェマ・アータートン)とチャーリー(ジェイソン・フレミング)のボヴァリー夫妻に、フランスの文豪フローベールの小説「ボヴァリー夫人」の登場人物を重ね合わせ、小説さながらに青年エルヴェ(ニールス・シュナイダー)と密会を重ねる夫人から目を離せなくなる……。

 マルタンの焼くヒマワリの種のパンや雑穀入りのクロキネット、ブリオシュ、バゲット・エピ、スペルト小麦のパンといった多彩なパンの香り立つような描写が見どころで、夫人と彼が親しくなるきっかけとなっている。

 すったもんだの末にボヴァリー夫妻と入れ替わりで隣に越してきた夫婦の名前も名作文学にちなんでいて(実はマルタンの息子の嘘)、マルタンが夫人に薦めるパンの名前がオチとなっている。

公式サイト:http://boverytopanya.com/

第7位

「鰻の男」の中国産ウナギ

「嘆きのピエタ」(2012)で第69回ヴェネツィア国際映画祭の最高賞となる金獅子賞を受賞した韓国の鬼才キム・ギドクが脚本と製作総指揮を手がけた社会派ドラマ。

 中国でウナギの養殖業を営むチャン(パク・ギウン)が韓国に輸出したウナギから基準値を超える水銀が検出され、彼は再検査を求めて危険を冒して韓国に密入国するが、食品安全庁の女性監視員ミ(ハン・チュア)が検査した結果は同じだった。

 密入国のため国にも帰れないチャンはミと愛人関係になり倉庫警備員の仕事を得るが、そこでは彼女が裏の組織と結託して検査で不合格になったウナギを流通させるという不正が行われていた……。

 ミは言葉の通じないチャンが作った食事の材料が中国産というだけでゴミ箱に捨ててしまう。そのくせ中国人の彼を慰みものにするという矛盾。韓国人が「メイド・イン・チャイナ」に抱く偏見と“食の安心・安全”の欺瞞を鋭く抉った内容は日本人にも他人事ではない。

 ちなみに韓国でもウナギは蒲焼にして食べるのだが、そのスタイルは自分で炭火ロースターで焼く焼肉式であることが料理店のシーンからうかがえる。

公式サイト:http://albatros-film.com/movie/unagino-otoko/

第6位

「インヒアレント・ヴァイス」のチョコバナナとパンケーキ

 トマス・ピンチョンの小説「LAヴァイス」(新潮社)を原作としたポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督作品。

 敵味方が入り乱れる複雑怪奇なストーリーは、「三つ数えろ」(1946、ハワード・ホークス監督)をはじめとするレイモンド・チャンドラー原作のフィリップ・マーロウものやオーソン・ウェルズ監督作品「上海から来た女」(1947)を想起させるが、1970年代初頭のロスを舞台にしたサイケデリックな雰囲気は、PTAが敬愛するロバート・アルトマン監督の「ロング・グッドバイ」(1973、チャンドラー原作)に近いと言える。

 この種の映画は登場人物に癖を与えて特徴付けるのが常套手段で、本作もジョシュ・ブローリン演じる「ビッグフット」ことビヨルンセン刑事が強面の雰囲気とは裏腹にいつもチョコバナナを舐めている卑猥な仕草や、「SUKIYAKI」(坂本九の「上を向いて歩こう」)がBGMで流れる日本食レストランに主人公であるヒッピー私立探偵の「ドッグ」ことラリー・スポーテッロ(ホアキン・フェニックス)を呼び付けて、和食ではなくパンケーキを食べながら、日系人の主人に「キイチロウ、モット、パニケイク!」と変な日本語でしきりにお代わりをねだる姿が笑いを誘いながら“つかみ”となっている。

公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/inherent-vice/

第5位

「料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命」のセビーチェ

 ペルーを代表する料理人であると共に、12カ国50店舗を超えるレストランの経営者、料理本の著者、TV番組への出演等、多彩な顔を持つペルー料理界のリーダー、ガストン・アクリオの素顔に迫るドキュメンタリーである。

 彼は若い頃、パリの名門料理学校ル・コルドン・ブルーでフランス料理を学び、ペルーに帰国後の1994年、首都リマで妻と共にレストラン「アストリッド&ガストン」をオープン。フレンチスタイルの料理を出しながらペルーの食材を使った創作料理の開発を続け、現在ではイタリアのミネラルウォーターブランド「サンペレグリノ」による「ザ・ワールド50ベスト・レストラン」で、2015年の14位にランクされるほどの名声を得ている。

 代表的なペルービアン(ペルー料理)であるセビーチェ(魚介類のマリネ)を美しく彩ったメニューもその一つで、新鮮な食材を提供してくれる川上の漁業者に目を向け、海の保全活動に取り組む等の姿勢が、国民的シェフとして愛される所以である。

公式サイト:http://gaston-movie.jp/

第4位

「ア・フィルム・アバウト・コーヒー A FILM ABOUT COFFEE」のスペシャルティコーヒー

 ニューヨーク、サンフランシスコ、ポートランド、そして東京といった都市を舞台に、世界のコーヒー文化の現在を描いたドキュメンタリー。大手コーヒーチェーンやコンビニのコーヒースタンドとしての台頭等、質より量を優先するコーヒー業界の中にあって、「Seed to Cup」(コーヒー豆の選定から精製、焙煎、抽出、そしてカップに至るまで)に徹底してこだわってスペシャルな一杯を生み出すプロフェッショナルたちの情熱が、新たなムーブメントになりつつあるところが興味深い。

 なかでも2013年に多くのファンに惜しまれつつ38年の歴史を閉じた東京・表参道の純喫茶「大坊珈琲店」のオーナーである大坊勝次氏が、手回しのロースターで自家焙煎した豆をミルで挽き、ネルドリップでコーヒーを淹れる研ぎ澄まされた一連の所作の美しさはまさに職人技で、コーヒーの芳ばしい香りがスクリーンのこちら側まで漂ってくるようである。

公式サイト:http://www.afilmaboutcoffee.jp/

第3位

「ステーキ・レボリューション」の牛肉

 本連載第111回参照。フランスの畜産農家で育った肉好きの監督が「パリ最高の精肉店」に選ばれた“肉の達人”をガイドに世界20カ国、200を超えるステーキ店を巡って「世界で一番おいしいステーキ」ベスト10を選んでいく。

 旅を進めるうちに、穀物飼料を与えて短期間に肥育するグレインフェッドと牧草だけで育てるグラスフェッドそれぞれの長所と短所や、国によって異なる牛肉のおいしさのあり方等が浮かび上がり、単なるランキングには留まらないドキュメンタリーになっている。

 本作に登場する肉好きが高じて生産者になってしまったカナダ人ジャーナリスト、マーク・シャッカーが同じテーマを扱った「ステーキ!世界一の牛肉を探す旅」(中公文庫)を著している。こちらを読んだ後で観るとより理解が深まることだろう。

公式サイト:http://steakrevolution.jp/

第2位

「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」のキューバサンドイッチ

 本連載第96回、 「食卓書机」第94回参照。「アイアンマン」シリーズ(本連載第48回参照)のジョン・ファブローが製作・脚本・監督・主演の4役を務めた本作は、焼肉をトルティーヤで包んだタコスで昨今のアメリカでのフードトラックブームのきっかけを作った韓国系アメリカ人のトップシェフ、ロイ・チョイの体験がヒントになっていて、彼自身もファブローの料理指導と共同製作者として関与している。

 ちょっと不出来のキューバサンドイッチを出そうとする息子をシェフのカール(ファブロー)が制し、お前は本当にそれでいいと思うのかと問う完全主義が、彼らのフードトラックがB級の屋台と一線を画して人気を得た背景にある。

 妻の元カレの富豪(「アイアンマン」ことロバート・ダウニー・Jr.)から譲り受けたオンボロトラックを磨き上げ、本格的な厨房設備を取り付けてシェフの仕事場となるフードトラックに仕上げていく過程や、Twitter等のSNSが主人公の名声の浮沈と運命を左右するところも見どころだ。

公式サイト:http://chef-movie.jp/

第1位

「イタリアは呼んでいる」の旅・料理・映画

今年のベストワン「イタリアは呼んでいる」。スティーブとロブの5泊6日のイタリアグルメトリップマップ

今年のベストワン「イタリアは呼んでいる」。スティーブとロブの5泊6日のイタリアグルメトリップマップ

 本連載第105回参照。イギリスのコメディアン、スティーブ・クーガンとロブ・ブライドンのコンビが国内の湖水地方のホテルとレストランを巡った「スティーブとロブのグルメトリップ」(2010)の続編。

 今回はイタリア北西部ピエモンテ州のヴィンテージワインと郷土料理から、南部ナポリ湾のシーフードまで、イタリアを縦断する5泊6日のグルメ取材旅行を、イタリアに因んだ映画についての2人の蘊蓄あふれたユーモラスなトークと、イギリスの吟遊詩人バイロンとシェリーの話題、旅先で出会った女性とのつかの間の恋を織り交ぜて描いた“旅・料理・映画”の三拍子揃ったロードムービーである。

 監督を務めたマイケル・ウィンターボトムは次作「天使の消えた街」(公式サイト:http://www.angel-kieta.com/)でもイタリアを舞台にしているが、こちらはトスカーナ州のシエナで実際に起きたイギリス人留学生殺人事件を題材に映画を撮ろうとする監督を描いたフェリーニの「8 1/2」(1963)的な内容になっている。

公式サイト:http://www.crest-inter.co.jp/Italy/

印象に残ったその他の料理たち

 惜しくも選外となったが、「おみおくりの作法」のイギリス料理(本連載第93回参照)、「妻への家路」の饅頭と餃子(本連載第97回参照)、「唐山大地震」の冷やしトマト()、「セッション」(本連載第101回参照)のポップコーンも印象に残った。

 次回(12月25日)はベスト10「邦画編」である。こちらは洋画にも増して激戦が予想されるので期待してお待ちいただきたい。

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。