「U・ボート」潜水艦の食事

今回は、1981年製作のドイツ映画「U・ボート」で、潜水艦の乗組員たちが食べていたものについて述べていく。

 1973年に出版された原作「Das Boot」は、第二次世界大戦中に著者のロタール・ギュンター・ブッフハイムが、ドイツ海軍のUボートに従軍記者として乗艦した時の体験を基にしている。映画に登場するヴェルナー少尉(ヘルベルト・グリューネマイヤー)が彼に当たる。

 Uボートとはドイツ海軍所属の潜水艦の総称で、第二次世界大戦では1,000隻以上が約4万人の兵を乗せ、敵国の輸送船や軍艦を破壊するために出撃したが、そのうち3万人は帰還しなかったという。本作で描かれるのは、そのような結果をもたらした過酷な作戦行動と、艦内の極限状況である。

食べることが唯一の楽しみ

 第二次世界大戦の開戦から2年後の1941年、ナチス占領下のフランスの軍港ラ・ロシェルのドックから、大西洋を航行する連合国護送船団を攻撃する任務を帯びた1隻のUボートが出撃しようとしていた。“笑うノコギリザメ”のマークが目印のUボートVII型「U96」。乗組員は30代の艦長(ユルゲン・プロホノフ)以下、一部を除いて20代前半の新兵がほとんどを占めている。熟練兵の多くが戦死し、年端もいかぬ若者を戦場に駆り立てるという構図は、ドイツと同盟国だった日本でも見られたことである。

 本作の撮影に当たっては実物大のU96のセットが建造され、艦内のリアルな描写に貢献している。

 本作の監督で、「ネバーエンディング・ストーリー」(1984)の後ハリウッドに進出し、「ザ・シークレット・サービス」(1993)、「アウトブレイク」(1995)、「エアフォース・ワン」(1997)等を撮ったヴォルフガング・ペーターゼンが縦移動のカメラワークで強調したのはその“狭さ”。艦の全長は約67mだが、魚雷発射室や機関室を除くと内寸はさらに限られる。その艦内に50名近くの乗組員がひしめき合い、トイレは1つだけ。土管のように細い通路は人のすれ違いにも苦労するほど。さまざまな生活臭が混ざって悪臭を放ち、衛生状態はすこぶる悪い。

 このような空間で長期間過ごすだけでも大変なのに、常に敵艦に遭遇する緊張感と対峙しているのだから、生き抜くには相当強靭な精神力が必要だろうと思わせるに十分な描写である。

 働いて、食って、寝て、の繰り返しの中で、食事の時間は唯一の楽しみと言えるものだろう。パン、野菜、果物……狭い食料格納庫には収まりきれず、指揮所辺りにまでソーセージをぶら下げたり、ハムの塊をハンモックで干したりと艦内は食材だらけ。艦長、機関長(クラウス・ヴェンネマン)、先任士官(フーベルトゥス・ベンクシュ)、次席士官(マルティン・ゼメルロッゲ)にヴェルナー少尉を加えた5人が寝室の脇にある狭い士官食堂でいつも食事を摂るのだが、出港してしばらくは生鮮食料品も保つので、炊事担当のシュムット(ヘルムート・ノイマイヤー)の作る料理の種類も多く、ビーフやチキンの肉料理にポテト、サラダ、パン、コーヒー等、陸のレストランにもひけをとらない感がある。そんな中でメキシコ育ちでヒトラー・ユーゲント出身の先任士官のナイフとフォークの使い方は、クソ真面目な彼の性格を表している。

“Uボートカクテル”と“毛ジラミ騒動”

次席士官があおって見せる、コンデンスミルクにレモン汁と砂糖を混ぜて作った“Uボートカクテル”
次席士官があおって見せる、コンデンスミルクにレモン汁と砂糖を混ぜて作った“Uボートカクテル”

 航海が長くなってくると缶詰や乾パンといった保存食が増えてくるのは止むを得ないところだが、軍隊としていちばんの問題は士気への影響。「クソみたいな味の卵」と食事に不満を述べる兵も出てきて、艦内は沈鬱なムードに包まれる。そんな中、士官たちがレモンを食べている食堂で、例の先任士官とは対照的に脳天気な性格の次席士官が見せた一発芸が、コンデンスミルクにレモン汁と砂糖を混ぜた“Uボートカクテル”を飲んで見せること。しかし時ならぬ大音響のラジオの音(実は敵艦接近の暗号)にかき消され、ギャグは不発に終わる。言うまでもないがレモンを食べるのはビタミンCの欠乏からくる壊血病予防のためで、長期間航海する他の船と同様にU96にもレモンやオレンジが大量に積み込まれている。

 イギリス軍の駆逐艦との“静かなる決闘”を終えたU96に次に襲いかかってきたのは毛ジラミの大軍だった。新兵たちを中心に感染が拡大し、いつも身ぎれいにしている先任士官にまで初期症状が現れる。それを最初に指摘したのは艦長だったが、士官食堂でいつものようなナイフ・フォークさばきで今手をつけたばかりのメインディシュまで何やら毛ジラミの化け物のように見えてきて、皮肉のこもったシーンになっている。

最後までゲルマン魂で

 敵駆逐艦との死闘でダメージを受けたU96だが、当初の帰港の予定を変更する新たな指令が届く。中立国スペインの港ビゴに立ち寄り、ジブラルタル海峡を抜けて地中海に入り、イタリアに向かえというのだ。ビゴでは偽装商船ヴェザー号から補給を受ける。艦長と機関長はヴェザー号の船長に招かれ、焼きたてのパンにケーキ、新鮮な肉にソーセージ、ニシン等、U96の料理とは対照的なヴェザー号のコック自慢のドイツ料理のご馳走で歓待を受ける。ヴェザー号の船長は、艦長と機関長を歴戦の英雄と褒めたたえるが、どこか含みがあるようにも映る。それもそのはず、ジブラルタル海峡はイギリス軍の要衝であり、敵艦船がひしめいている狭い海峡の突破を試みることは、自殺行為に等しい。このもてなしが“最後の晩餐”になるかもしれないことは、艦長も機関長も理解していた。

 補給を終え、食糧もたっぷり積み込んだU96は一路ジブラルタルに向かう。案の定、手荒い歓迎を受けて最大のピンチに陥るが、艦長は、もし切り抜けられたら皆にビールをおごるぞと宣言する。ビールというところがいかにもドイツ人らしいが、彼らが祝杯を挙げることができたのかについては、実際に映画をご覧いただきたい。

こぼれ話

 本作はもともとはテレビドラマとして製作されたが、劇場版として135分に再編集したものが先に公開され、第55回アカデミー賞で6部門にノミネートされる等好評を博した。テレビドラマの放映は全6回313分で1985年に公開。また1997年にペーターゼンが208分に再編集したディレクターズ・カット版も存在する。今回の原稿はディレクターズ・カット版に基づく。

 本作で使用された実物大のUボートのレプリカは、同時期に撮影されたスティーブン・スピルバーグ監督の「レイダース 失われた聖櫃<アーク>」(1981)でもU26として使用された。現在はミュンヘン郊外のバヴァリアフィルムのスタジオで展示されている。

 第90回キネマ旬報ベストテンで第1位を獲得したアニメ映画「この世界の片隅に」の劇中に「ドイツから来たUボート」というセリフがある。これはドイツから大日本帝国海軍に譲渡されたUボートIX型U-511のことで、呉軍港に入港して連合艦隊に編入され、呂号第五百潜水艦として再就役したものである。


【U・ボート】

原題:Das Boot
製作国:西ドイツ(ディレクターズカット:ドイツ)
製作年:1981年(ディレクターズカット:1997年)
公開年月日:1982年1月23日(ディレクターズカット:2013年9月28日)
上映時間:135分(ディレクターズカット:208分)
製作会社:バヴァリア・アトリエ=ラディアント・フィルム
配給:日本ヘラルド映画(ディレクターズカット:角川書店 )
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・脚本:ヴォルフガング・ペーターゼン
原作:ロタール・ギュンター・ブッフハイム
製作:ギュンター・ロールバッハ
撮影:ヨスト・ヴァカーノ
美術:ゲート・ヴァイトラー、ロルフ・ツェートバウアー
音楽:クラウス・ドルディンガー
編集:ハンネス・ニーケル
キャスト
艦長:ユルゲン・プロホノフ
報道部記者ヴェルナー少尉:ヘルベルト・グリューネマイヤー
機関長:クラウス・ヴェンネマン
先任士官:フーベルトゥス・ベンクシュ
次席士官:マルティン・ゼメルロッゲ
航海長:ベルント・タウバー
ウルマン:マルティン・マイ
ヨハン:エルウィン・レーダー
兵曹長:ウーヴェ・オクセンクネヒト
シュムット:ヘルムート・ノイマイヤー
ヒンリヒ:ハインツ・ヘーニヒ
ピルグリム:ヤン・フェダー
フレンセン:ラルフ・リヒター
アリオ:クロード・オリヴァー・ルドルフ
シュヴァレ:オリヴァー・シュトリッツェル
ドゥフテ:ルッツ・シュネル
聖書屋:ヨアヒム・ベルンハルト

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。