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「エイプリルフールズ」の芋けんぴ

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前回予告した「エイプリルフールズ」のお話である。

グランドホテル方式のコメディ

 本作は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ(200520072012)、「キサラギ」(2007)、「探偵はBARにいる」シリーズ(20112013)、「寄生獣・寄生獣 完結編」2014・2015)や、テレビドラマ「ゴンゾウ 伝説の刑事」(2008)、「外事警察」(2009)、「鈴木先生」(2011)等で知られる古沢良太のオリジナルシナリオを、テレビドラマ「リーガル・ハイ」シリーズ(2012~2014)でコンビを組んだ石川淳一が監督したコメディである。

 タイトルに合わせて今年の4月1日に公開され、総勢27名の主要登場人物がエイプリル・フールの24時間につく嘘がグランドホテル方式で展開していく。

 グランドホテル方式とは、1932年のアメリカ映画「グランド・ホテル」に由来するシナリオ技法の一種で、同時に複数のドラマが展開する群像劇のことである。例としては、時代劇の「幕末太陽傳」(1957)、パニック映画の「大空港」(1970)や「タワーリング・インフェルノ」(1974)、ロバート・アルトマン監督の「ナッシュビル」(1975)や「ウエディング」(1978)等があり、最近では「ラブ・アクチュアリー」(2003)、「バレンタインデー」(2010)、「ニューイヤーズ・イブ」(2011)といったロマンティック・コメディで多用されている。

芋けんぴがつなぐストーリー

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

あゆみが常食する芋けんぴのパッケージも何やら嘘臭い

あゆみが常食する芋けんぴのパッケージも何やら嘘臭い

「エイプリルフールズ」の場合、7つのエピソードが並行して同時進行していくのだが、それぞれのストーリーをつなげる役割を果たしているのが前回の結びで述べた“芋けんぴ”だ。サツマイモを細切りにし油で揚げて砂糖をからめた、カリッとした食感が特徴の菓子である。

 映画は現在と回想が入り組んでいるので時系列順にまとめてみると、そもそもこの芋けんぴはインチキ占い師の老婆(りりィ)が商売道具として使っていたものを、女たらしのニセ医者・牧野亘(松坂桃李)が病院でもらったものである。たまたまその日はナンパ相手が見つからなかった彼は、対人恐怖症に悩んでいる病院の清掃員・新田あゆみ(戸田恵梨香)にこれを食べれば直ると言って手渡す。その出会いがきっかけとなって、彼女は彼と一夜限りの関係を結んで子供を妊娠し、認知と入籍を求めて彼がナンパ目的で日常的に利用しているイタリアンレストラン「リストランテ・デル・ドランマティコ」に拳銃を持って乗り込むことになるのである。

 ここで誰もが疑問に思うのは、彼女がどこで拳銃を手に入れたのかということだが、実は彼女はレストランに向かう前に中華料理店に立ち寄っていて、そこに居合わせた鉄砲玉(敵対する暴力団関係者を殺害する実行役のこと)のヤクザ・勇司(寺島進)と荷物がすり替わっていたのだった。

 このすり替わりは偶然に起こったことではなく、刑務所入りを覚悟した彼が誘拐を偽装して連れ回していた離婚した元妻・絵里子(山口紗弥加)と暮らす実の娘・理香(浜辺美波)の機転からだった。おかげで彼はゴルフ練習場で標的の暴力団幹部(千葉真一)に拳銃ならぬ芋けんぴを突き出し、刑務所入りを免れることになるのである。

芋けんぴの嘘から出た真実

 あゆみは、天才外科医を装って病院内を徘徊し、手当たり次第に美女をひっかけていた亘を胡散臭く思っていて、芋けんぴが対人恐怖症に効くという彼の嘘を信じた訳ではなかったが、その言葉に彼女への思いやりを感じて無理にでも信じようとし、彼にとっては出来心だった一夜の後に連絡がとれなくなっても芋けんぴを食べ続けていた。

 そして4月1日の朝、少年時代に父と海に漁に出て行方不明となった男性(生瀬勝久)が幼馴染みの女性(千葉雅子)の努力によって42年ぶりに南の島で発見され、生還を果たしたというニュース(実はこれもエイプリルフールの嘘)がテレビで報じられ、「信じていれば願いは叶うのですね」というキャスターの言葉に背中を押されるように亘の携帯に電話すると、これまでずっと通じなかったのが嘘のようにつながり(実はナンパ相手が間違えて取ったのだが)彼の行き先のレストランを突き止めたのだった。

 そのレストランであゆみは、他の客や従業員を巻き込んですったもんだの籠城劇を演じた挙句、対人恐怖症を克服し夫と赤ん坊を同時に得るという、ウソをマコトにしてしまうような成果を挙げる。詳細は映画をご覧いただきたいが、ここでは日付が変わって4月2日となり、嘘が嘘でなくなるとだけ言っておく。

往年のスターへのオマージュ

 この映画には前述のドラマ「リーガル・ハイ」の出演者が多数キャスティングされていて、往年の時代劇スターである里見浩太朗もその一人である。ちなみにあゆみが立て籠もったレストランの客の一人で謎の髭の紳士を演じている大和田伸也は、里見とはロングセラーテレビ時代劇「水戸黄門 第九部第十三部」(1978~1983)で助さん・格さんを演じたコンビである。

 また、里見の妻であゆみの同僚の清掃員を演じた富司純子(藤純子)は、「緋牡丹博徒」シリーズ(1968~1972)で主演のお竜を演じた元東映のスターである。シリーズでは昨年末に相次いで亡くなった高倉健や菅原文太が女侠客役の彼女を盛り立て、やはり東映出身の里見も「緋牡丹博徒 鉄火場列伝」(1969)で共演している(前出の千葉真一も東映出身のアクションスターである)。今回里見と富司は、癌で余命いくばくもない妻・文子(富司)を楽しませようという夫・佑麻呂(里見)の発案でニセの皇族になりすまし、先の誘拐騒ぎの娘・理香の継父(滝藤賢一)が運転するリムジンを借り切り、ショッピングやハンバーガーショップ、ゲームセンター等を巡る一日だけのお忍びデートを楽しむ櫻小路夫妻を演じている。

 そして最後に訪れた豪華客船のナイトクルーズで富司が、「緋牡丹博徒」の主題歌以来となる歌声を、「アメイジング・グレース」で聴かせてくれるのも楽しみの一つである。


【エイプリルフールズ】
◆公式サイト
http://www.aprilfools.jp/
◆作品基本データ
製作国:日本
製作年:2015年
公開年月日:2015年4月1日
上映時間:120分
製作会社:フジテレビジョン
配給:東宝
カラー/モノクロ:カラー
◆スタッフ
監督:石川淳一
原作・脚本:古沢良太
企画・プロデュース:成河広明
プロデューサー:梶本圭、稲田秀樹
撮影:大石弘宣
美術:柳川和央
音楽:林ゆうき
録音:芦原邦雄
音響効果:猪俣奉史
照明:藤本潤一
編集:河村信二
選曲:大森力也
ライン・プロデューサー:森太郎
助監督:渡部篤史
VFXスーパーバイザー:西尾健太郎
映像:高垣知加士
◆キャスト
新田あゆみ/対人恐怖症の妊婦:戸田恵梨香
牧野亘/SEX依存症の天才外科医:松坂桃李
命懸けの接客係:ユースケ・サンタマリア
ホラ吹きオーナーシェフ:小澤征悦
麗子/魔性のキャビンアテンダント:菜々緒
巻き込まれた夫:戸次重幸
巻き込まれた妻:宍戸美和公
謎の髭の紳士:大和田伸也
不器用な誘拐犯:寺島進
従順な舎弟:高橋努
ワケあり小学生:浜辺美波
困惑する母親:山口紗弥加
お人好しの運転手:滝藤賢一
強面暴力団幹部:千葉真一
過去に囚われた刑事:高嶋政伸
うさんくさい占い老婆:りりィ
不運続きの救急隊員:岡田将生
生還した男:生瀬勝久
パンクの女:小池栄子
生還させた女:千葉雅子
告白される大学生:窪田正孝
告白する大学生:矢野聖人
僕は宇宙人:浦上晟周
ポップなバイト女子:木南晴夏
激しい店長:古田新太
ロイヤル婦人:富司純子
ロイヤル紳士:里見浩太朗

(参考文献:KINENOTE)

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。