海辺のお化け天丼と父母の顔

お化け天丼
「ミンヨン 倍音の法則」より。父母と海岸で食べた思い出の“お化け天丼”
お化け天丼
「ミンヨン 倍音の法則」より。父母と海岸で食べた思い出の“お化け天丼”

前回に続き年末企画として年間1,000本以上の鑑賞本数を誇る私rightwideが、今年公開された映画の中から印象的な食べ物や飲み物が出てきた作品を厳選し、ベスト10として発表する。今回は邦画編である。

【選定基準】

2014年1月1日~2014年12月31日に公開(公開予定)の作品で、
・食べ物や飲み物の「おいしそう度」
・食べ物や飲み物の作品内容への関連性
・作品自体の完成度
の3点を加味して選定した。

順位タイトルおいしそう度作品との関連性作品の完成度合計
1ミンヨン 倍音の法則★★★★★★★★★★★★★★14
2ぶどうのなみだ★★★★★★★★★★★★★13
2リトル・フォレスト 夏・秋★★★★★★★★★★★★★13
4大人ドロップ★★★★★★★★★★★11
4拳銃と目玉焼★★★★★★★★★★★11
4妻が恋した夏★★★★★★★★★★★11
4六月燈の三姉妹★★★★★★★★★★★11
8がじまる食堂の恋★★★★★★★★★★10
8ドライブイン蒲生★★★★★★★★★★10
8ニシノユキヒコの恋と冒険★★★★★★★★★★10

第8位(同点3作品)

「ニシノユキヒコの恋と冒険」の白くま

 川上弘美同名連作短編集(新潮文庫)を原作に、「人のセックスを笑うな」(2008)の女性監督・井口奈己が映画化。主人公のニシノユキヒコ(竹野内豊)の葬儀に集まった7人の女たちが、ルックスがよく、仕事ができ、女にも優しい完璧さを備えながら、なぜか最後には女たちに去られてしまう彼の思い出を回想するという「市民ケーン」(1941)的な構成の作品である。

 白くまは鹿児島でかき氷の上に練乳をかけ、果物を盛り付け、餡を乗せて売られたのが発祥といわれる氷菓で、現在ではカップ詰めアイスにもなって全国で売られている。劇中ではニシノがマンションの隣に住むタマ(木村文乃)と接近するための小道具として使われている。

公式サイト:http://nishinoyukihiko.com/

第8位

「ドライブイン蒲生」のエビフライ

 伊藤たかみ短編小説(河出書房新社)を原作に、カメラマンとして50年近いキャリアを持つたむらまさき(田村正毅)が、75歳にして初めて監督を務めた作品。

 蒲生とは地名ではなく街道沿いの寂れたドライブインを営む一家の苗字である。店主だった亡き父・三郎(永瀬正敏)は、生前、息子の俊也(染谷将太)に、蒲生家は江戸時代に三十石船の乗客たちに飲食物を売っていた「くらわんか舟」の末裔だといい、以下のような哲学を語っていた。

「ドライブインの食べ物はまずいんだ。どこかに向かう途中のドライブインでうまいものを出したら、みんなそこに長居してしまうから」

 スパゲッティ・イタリアン(ナポリタン)など、やる気のなさそうなメニューの並んだドライブインで、エビフライは唯一ハレを感じさせる料理であり、俊也の姉でヤンママの沙紀(黒川芽以)が、別居中の夫と対決する別のドライブインの場面でも効果的に使われている。

公式サイト:http://drive-in-gamo.com/

第8位

「がじまる食堂の恋」のがじまるそば

 沖縄県名護市で、祖母からレシピを受け継いで食堂を一人で切り盛りしているみずほ(波瑠)のもとに、財布をなくした旅行者の隼人(小柳友)、東京から帰郷した元カレの翔太(桜田通)、その彼女の莉子(竹富聖花)が集い、“四角関係”を繰り広げるラブストーリー。

「がじまる食堂」の名前は、目を閉じて触ると最愛の人が見えるという言い伝えのある町の中央にそびえ立つガジュマルの木からきている。食堂が舞台だが意外と食事のシーンは少なく、名物のナーベラー(へちま)チャンプルーと、祖母があえてレシピを書き遺さなかった「がじまるそば」が彼女のオリジナルとして最後に登場するのが見せ場となっている。

公式サイト:http://gajimaru-shokudo.com/

第4位(同点4作品)

「六月燈の三姉妹」のかるキャン

 本連載第76回参照。「かるキャン」とは、鹿児島名物の和菓子「軽羹」(かるかん)を、冷蔵保ちのよいサツマイモの新品種「こなみずき」のデンプンを使って調製し、チョコや抹茶のクリームをコーティングしてアイスキャンディー状にしたもの。主人公の次女・奈美江(吹石一恵)ら三姉妹の実家、鹿児島の潰れかけた和菓子店「とら屋」がV字回復を期して開発した新商品である。

 映画の公開を記念して、一部店舗で期間限定で販売された以外には実際の商品化はされていないようだが(2014年12月現在)、映画を観て是非一度味わってみたいと思った菓子の一つである。

公式サイト:http://6gatsudo.jp/

第4位

「妻が恋した夏」のカレー

 6人の監督による恋愛映画のシリーズ「ラブ・ストーリーズ」の第4作で、「UNDERWATER LOVE―おんなの河童―」本連載第9回参照)のいまおかしんじが監督を務めた作品。自分ではない誰かの子を宿したまま死んだ妻・かおり(宮地真緒)を許せない夫の浩二(金子昇)。彼が、彼女の足跡をたどる中で突き止めたのが、かおりの小学校時代の同級生で、がんで余命半年と宣告された中村(河合龍之介)が営む移動式のカレーショップだった。そこで出された中村特製のカレーの味は、かおりが浩二に作ってくれたものと同じだった……。

 市販のカレールーを使いながら、下ごしらえ次第でプロ並みのおいしいカレーができるという中村の蘊蓄は、カレーが大好きな監督の代弁者のようだった。

公式サイト:http://www.lovestories.jp/vol4.html

第4位

「拳銃と目玉焼」の目玉焼

 京都市伏見区でビデオ撮影業を営む安田淳一監督が、8万円のカメラと750円のライト、約3.5人のスタッフで3年間の撮影期間を費やして完成したという「仮面ライダー」などの変身ヒーローものにインスパイアされた自主製作映画。

 主人公、独身で中年の新聞配達員、志郎(小野孝弘)は、朝刊を配り終えた後に近所の喫茶店「ノエル」で店員のユキ(沙倉ゆうの)が作るモーニングの目玉焼を食べるのを楽しみにしていた。そのユキがトラブルに巻き込まれたことから、ネット通販で購入したオートバイ用のプロテクターやヘルメットを改造したスーツに身を包み、悪の組織と対決するという「タクシー・ドライバー」(1976)をも彷彿とさせるストーリーである。

 ユキが作る目玉焼は、志郎が少年時代に母に作ってもらった目玉焼の記憶ともつながっていて、ヒーローに変身した彼の仮面の目玉が、2つの黄身にオーバーラップするというオチがついている。

公式サイト:http://withltd.sakura.ne.jp/kendama/

第4位

「大人ドロップ」の肝油ドロップ

 本連載第72回参照。樋口直哉小説を原作に「紙の月」(2014)の池松壮亮と「寄生獣」(2014)の橋本愛が共演した青春映画である。

 タイトルの由来である「カワイ肝油ドロップS」は、由(池松)と杏(橋本)の小学校時代の出会いから高3の夏の別れ、そして10年後の再会といったターニングポイントに登場し、本物のドロップのような甘さを持ちながら、1日2粒までしか食べられないという医薬品としての用法用量が、大人になるための通過儀礼としての痛みの比喩となっている。

公式サイト:http://otonadrop.jp/

第2位(同点2作品)

「リトル・フォレスト 夏・秋」の米サワー

 本連載第82回参照。五十嵐大介漫画を原作に、上記「大人ドロップ」にも出演した橋本愛が演じるいち子の東北地方の故郷・小森を舞台に、春夏秋冬の農作業と、収穫物を材料とした食べ物を絡めて描いたエピソード集の「夏・秋」編。なかでも地域特有の湿気がまとわりつく夏の辛い草取り作業の後で飲む甘酒を発酵させた米サワーは、観ている側にもその味と清涼感が伝わってきた。

公式サイト:http://littleforest-movie.jp/

第2位

「ぶどうのなみだ」のピノ・ノワール

 本連載第85回参照。「しあわせのパン」(2011)の三島有紀子監督が北海道空知地方を舞台に書き下ろしたオリジナルシナリオの映画化。

 指揮者になる夢が破れて故郷で赤ワイン用ブドウ品種、ピノ・ノワールの栽培とワイン作りに没頭する兄・アオ(大泉洋)と、それを見守る弟・ロク(染谷将太)ら村の人々の間に現れた穴を掘る女・エリカ(安藤裕子)が織りなすドラマである。主役のピノ・ノワールはもちろん、エリカの作る地場野菜を使った料理もおいしそうだった。

公式サイト:http://budo-namida.asmik-ace.co.jp/

第1位

「ミンヨン 倍音の法則」の“お化け天丼”

お化け天丼
「ミンヨン 倍音の法則」より。父母と海岸で食べた思い出の“お化け天丼”

 NHKで「夢の島少女」(1974)や「四季・ユートピアノ」(1980)、「川の流れはバイオリンの音」(1981)に始まる“川三部作”などの作品を手がけた“伝説の映像作家”佐々木昭一郎が約20年ぶりにメガホンを取った、また劇場用映画としては初の監督作品。

 韓国人留学生ミンヨンが、祖母の遺した写真の日本人女性・佐々木すえ子を探すうちに70年の時を超えてすえ子と同化し、戦時下の過酷な人生を生きるという、時間と空間を跳躍した幻想的なストーリーである。

 実はすえ子のモデルは佐々木監督の母であり、軍部批判の新聞記事を書いたために官憲によって毒入りの桃で殺された記憶の中の父も登場する。父がまだ健在だった頃、海岸の砂浜で母と三人で天丼を食べるという、夢とも現実ともとれぬ場面があるのだが、その天丼の海老は丼に収まりきれない巨大なもので、それをいかにもおいそうに口に運ぶ父の姿と母の笑顔に、佐々木少年は最後の家族団欒の幸せを見たのであろう。

公式サイト:http://www.sasaki-shoichiro.com/

総評

 作品基本データを見ると、ベスト10のうち3作品「がじまる食堂の恋」「六月燈の三姉妹」「ぶどうのなみだ」が、地方振興のために企画された映画であることがわかる。山村の過疎化や地方都市の空洞化に悩む地域が、地元特産の食べ物を使って何とか町おこし・村おこしを図ろうとしている苦しい現状が見てとれる。

 また、携帯端末の普及によってほとんどの人が動画の撮影が可能となった現在、映画の敷居が低くなっているのも昨今の傾向である。2013年の邦画の公開本数は591本(前年比37本増)で、本数だけとってみれば邦画の全盛期と呼ばれた1960年(547本)以上であるが()、そのほとんどは低予算・オールロケのビデオ撮影で撮られた作品であり、今回のベスト10の中では「拳銃と目玉焼」がそれにあたる。

 音楽コンサートやオペラ、バレエ、スポーツなどのライブビューイング、シネマ歌舞伎、ゲキシネなどのODS(Other Digital Stuff=非映画デジタルコンテンツ)も増え、映画と他の表現との境界線が曖昧になっている中、「何をもって映画とするか」は観る側それぞれの感性に委ねられている。たとえば、今回1位を獲得した佐々木昭一郎のTV作品はまぎれもなく“映画”だと思うし、宮崎駿のアニメだって“映画”だろう。

 そんな中、私も食の魅力を引き出す“映画”を見つけるべく日々取り組んでいきたいと思っている。

※参考文献:日本映画産業統計(一般社団法人日本映画製作者連盟 http://www.eiren.org/index.html

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。