「アイアンマン」の好物

ドーナツを食うアイアンマン
「アイアンマン2」(2010)。ドーナツ屋の看板に上ってドーナツを食うアイアンマンを見上げるニック・フューリー

現在公開中の「アイアンマン3」(2013)はアメリカン・コミックを原作としたシリーズ3部作の完結編である。「スーパーマン」(マン・オブ・スティール)「バットマン」(ダークナイト)「スパイダーマン」といった今の大人が子供時代に熱中したレトロヒーローの実写映画化は安定した興行成績を見込めることから、現代ハリウッド映画のジャンルとして定着しており、その影響は日本映画にまで及んでいる。

 その中でもアイアンマンは食の嗜好がユニークなヒーローなので、今回は彼を取り上げようと思う。

「アイアンマン」のチーズバーガー

記者会見に臨むトニー・スターク
「アイアンマン」(2008)。チーズバーガーを頬張りながら記者会見に臨むトニー・スターク

「アイアンマン」(2008)の主人公トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、アメリカ有数の軍事企業スターク・インダストリーズの社長兼天才発明家である。若くして両親と死別し、父が創業した会社と巨額の富を受け継いだ彼はカリフォルニアのマリブにモダンな豪邸を構え、プライベートジェットやスーパーカーを乗り回し、スーパーモデルたちと浮名を流すプレイボーイとしてマスコミを賑わすセレブ中のセレブであるが、食べ物に関してはファストフードが好物という変わり者である。

 彼は新型ミサイルのプレゼンのために訪れたアフガニスタンでゲリラの襲撃を受け、心臓近くに銃弾の破片が残る重傷を負い拉致された状況の中でパワードスーツ「マーク1」を開発し、命からがら脱出に成功する。帰国した彼が、出迎えた秘書のペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)に真っ先に望んだのは病院ではなくチーズバーガーであった。そしてバーガーを手に記者会見場に現れた彼は、しゃがみこんでバーガーをうまそうに頬張りながら、自分が開発した兵器が人殺しの道具に使われるのは真っ平だとして軍事開発からの撤退を宣言するのである。

「アイアンマン2」のドーナツ

ドーナツを食うアイアンマン
「アイアンマン2」(2010)。ドーナツ屋の看板に上ってドーナツを食うアイアンマンを見上げるニック・フューリー

「アイアンマン2」(2010)では前作で自分がアイアンマンであることを記者会見で明かしたトニーがライバルであるハマー・インダストリーズ社長のジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)から口撃されて米議会の証人喚問に召還されたり、胸に埋め込んだ生命維持装置兼アイアンマンの動力源であるアーク・リアクターから放出される毒素に健康を蝕まれたりと苦境に陥る。

 さらにモナコでのカーレース出場中に、トニーの父ハワードがクビにした共同研究者の息子であるイワン・ヴァンコ(ミッキー・ローク)の電気ムチによる急襲を受けた彼は自暴自棄となり、親友のジェームズ・ローズ空軍中佐(ドン・チードル)と大喧嘩の末「マーク2」を没収されてしまう(この時点でマーク5まで完成済み)。

 アイアンマンスーツ着用のままドーナツ屋の看板によじ上り、夕陽を浴びながらやさぐれてドーナツをヤケ食いしていたトニーの元に現れたのが、前作でちらっと登場したS.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)である。

 実はアイアンマンをはじめ「キャプテン・アメリカ」や「マイティ・ソー」、「超人ハルク」といったマーベル・コミック社の作品に登場するスーパーヒーローたちの活躍する世界はすべて横でつながっていて、S.H.I.E.L.D.は彼らを管理する国家の秘密組織という設定である。ちなみにトニーの父ハワードはS.H.I.E.L.D.の創設メンバーの一人で、フューリーとキャプテン・アメリカとは友人であった(キャプテン・アメリカはコールド・スリープの後現代に目覚める設定)。

 フューリーは来るべき地球の危機に備えてスーパーヒーローをチーム化する「アベンジャーズ計画」を進めており、彼の部下である女スパイのブラック・ウィドーことナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)をトニーの元に送り込んで彼を監視させていた。その結果、チームに必要な適性の欠如を指摘されるも、アイアンマンはアベンジャーズの相談役としての契約をオファーされるのである。

 話を食べ物に戻すと、トニーが庶民的なファストフードを好むのは、彼の生い立ちと無縁ではないと思われる。彼が辛いときに寄り添ってくれる食べ物たちは、彼があまり知ることのなかった母親の味の代替品なのではないだろうか。身の回りの世話を焼いてくれるペッパーに魅かれていったのも孤独な彼の母親願望の表れなのかも知れない。

「アベンジャーズ」のシュワルマ

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

 かくして「アベンジャーズ」(2012)でアイアンマンはキャプテン・アメリカ (スティーヴ・ロジャース)、マイティ・ソー (クリス・ヘムズワース)、ハルク(マーク・ラファロ)、ブラック・ウィドー、ホークアイ(ジェレミー・レナー)と共に最強ヒーローチームの一員として、無限のエネルギー源である「キューブ」を狙うソーの義弟ロキ(トム・ヒドルストン)と未知のエイリアンであるチタウリの連合軍とニューヨークを舞台に異次元の壮絶な戦いを繰り広げることになる。

 この戦いが終わって疲れ果てた彼が、チームの皆を有名なシュワルマ(シャワルマ)の店に誘う場面がある。シュワルマとはドネルケバブのことで、香辛料などで下味を付けたマトンやラムなどの肉を大串に刺して垂直に立ててあぶり焼きにし、外側の焼けた部分から大きなナイフで肉をそぎ落としながら食べる中東発祥のファストフードである。

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。