溶けちゃいたいご飯の幸せ……「一汁三菜」(東京・南青山7丁目)

「一汁三菜」(南青山7丁目)
ビルの谷間の昔ながらの商店街にひっそりと

「一汁三菜」(南青山7丁目)
ビルの谷間の昔ながらの商店街にひっそりと

師走もはや半ばを過ぎ、季節はもう本格的に冬。それでも元気に自転車乗ってます。前回も触れましたが、寒いのは最初だけなので、発汗をしっかり吸収する素材のアンダーウェアを着込んで、元気に移動してます。肝心なのは、汗をかいたあとの着替え。急速に冷えるので注意なのです。あとは、ヘルメットの下の頭を覆う薄いキャップ。バンダナでもいいけれど、ヘルメットが隙間多いのでそのあたりのケアも大切。風邪ひかないようにみなさんもご注意ください。

ご近所の秘密ではもったいない

 ご紹介する3店目。自転車の特性を生かした移動だからこそ楽にうかがえる場所にある「一汁三菜」さんにおうかがいした。地下鉄表参道駅と広尾駅の中間のあたり、日赤医療センターの近くの商店街の中にあって、ご近所や車で移動する人以外にはなかなか縁遠い地点。しかし、自転車だと職場のある飯田橋からものの20分程度で簡単に行けてしまうから愉快だ。

 こちらのお店、メインのお魚とご飯、味噌汁、小鉢、というまっとうな定食を、夜遅めの時間でもおいしく食べさせてくれる大変貴重なお店なのだ。

 漫画で考えれば、まさに「深夜食堂」(安倍夜郎)の趣だけれど、ご飯と魚のおいしさにこだわるのなら「築地魚河岸三代目」(原作:大石けんいち・鍋島雅治・九和かずとほか、作画:はしもとみつお)のイメージに近いかもしれない。

 もっともこちらのお店の魚は、後述するように厳選に厳選を重ねて、さまざまな産地から直接買い付け送ってもらうのが特徴なので、築地とは直接は交流はないだろうけれど……。

  • 深夜食堂
  • 築地魚河岸三代目

神ご飯!「カミアカリ」

清潔で温かな店内
すっきり清潔。でも温かな店内

 さて、本業の仕事のほうが終わり、自転車を駆ってお店にうかがったのは午後9時近く。閉店近くのタイミングだったが、なんとか入れた。お店は、商店街の外れに本当にさりげなくたたずんでいる。

 中に入ると、大きな白木のカウンターが伸びていて、そこかしこの細かいところまで、店主のこだわりを感じさせる店内の設え。

 メニューは写真をご覧あれ。当夜は焼魚定食8種に豚角煮定食ととろろ定食。――いつも注文は死ぬほど悩む。全部おいしいに決まっているもの。魚がおいしいは当然としても、特筆すべきはご飯。そのバランスを考え、悩みに悩んで、「焼魚定食/さんま干し」(1250円)にした。

献立
どれもうまそうで悩みまくらずにはいられない献立

 こちらのお店、もともとは「こんな献立にするつもりはなかった」と店主の朝川紗帆さんは言う。7年前、飲食業とは直接関係ない美術系のお仕事をされていた朝川さんとそのスタッフが巡り合ったのが、静岡市の安東米店。かなりユニークで意欲的なお米屋さんで、朝川さんたちは、有機酒米生産者で全国的にも名高い松下明弘さんを紹介してもらった。この松下さんの玄米食用玄米「カミアカリ」を食べてみたところ、そのおいしさに驚愕! 爾来、すべての料理を、この胚芽が大きい玄米をよりおいしく食べてもらうため、と目的を方向転換したという。それでできたのが「一汁三菜」のご飯なのだ。

 もちろん、お米だけじゃなく、すべての素材が吟味され、生産地や仕入れを厳選している。今回のさんま干しは千葉から、味噌は山形の鈴木味噌店などなどと細部にわたってこだわりぬき、このメニュー構成になるわけだ。

切なさに鼻の奥がツン!

  • 焼魚定食
    「焼魚定食/さんま干し」(1250円)
  • 玄米飯と白飯のハーフ&ハーフ
    見るだけでも幸せなご飯。今回は玄米飯と白飯のハーフ&ハーフ

 さて、ご飯。

 こちらの定食では、ご飯は玄米か、白米か、もしくは玄米と白米のハーフ&ハーフという注文が可能だ。自分は、白いご飯の甘さも感じたかったので、迷わずハーフ&ハーフをお願いした。

 丁寧な、茶碗に寄せてもらった、つやつやご飯。白米は土鍋で炊いていて、その土鍋自体が素晴らしい出来映えなのに、そこから炊かれた白いご飯が、ちゃーんとオコゲで彩られている、というまことに素晴らしい光景。自分は、よそってもらうときに、その白飯とオコゲを見て、泣きたくなるぐらい切なくなり、鼻の奥がツン! とした。

おかわりの幸せ

 そして、さんま干し。

 朝川さんがロースターで魚を焼いてくれるのだが、その真剣な姿勢とまなざしに、こだわりを見た。と同時に、焼けるさんまの匂いがたまらない。

 ぷし、ぷし、ぷし、と、とても優しい音。詩が流れるような美しく整った室内に響き渡る。もちろん、香りがものすごくおいそうでたまらなくなる。

 一口。甘さがあるけれどしつこくなくて、それでいて身のおいしさはしっかり確保されている。

 まさに美味なる焼魚の最高傑作!

 ロースター前で真剣な表情で焼きを見ている朝川さんだからこそ、できる味なんだろうと思う。

  • さんま干し
    さんま干し
  • ぬか漬け
    ぬか漬け

  • キャベツのおひたし
    キャベツのおひたし
  • 奴豆腐
    奴豆腐

 また、小鉢の、ぬか漬けにしろ、キャベツのおひたしにしろ、奴豆腐にしろ、すべてが滋味あふれる素晴らしいお味で。

 赤だしの味噌汁の材料、海苔がまたおいしくてご飯を食べて……食べ終わるのがもったいなくて、ご飯のおかわりを敢行。

 本当に溶けちゃいたいくらいおいしいご飯がお盆に乗って運ばれて来る、その幸せな感覚を味わいながらもりもり食べた。

 これで1250円からいただけるとなれば、それは人気出ます。

 食べ終わった後にいただくほうじ茶。これまた深い味で。

 おいしさの感動が続く、仕事明けの喜びも負けるたまらない夜だった。


●「一汁三菜」

東京都港区南青山7-12-13
03-5467-9187
12:00~14:30(L.O.)
18:00~21:30(L.O.)
土曜はランチ営業のみ
定休日:日曜・祝日
※2011年12月は臨時休業日があるため訪店時は確認を。

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。