液体の攪拌を起こさない製造・輸送プロセス(2)

攪拌を抑えるように製造し瓶詰めしたワインを運ぶ場合、やはり攪拌を抑えるには縦箱正立状態で輸送すべきである。ただし、天然コルク栓の場合は、コルクの乾燥でダメージを起こす前に輸送を終える必要がある。これはハブ港を他国に奪われた今日の日本には難しいように考えられるが、どうも時代は変わってきているようである。

庫内移動も縦置き状態で行う

 もちろん、瓶詰め作業も検証する必要がある。ここでも時間を要すとも、やはりコンプレッサーの使用は避けるべきだ。瓶の中で酒が泡立つような送注状態になる設定は不可である。いわんや、洗瓶機のようなシャワリング・ノズルなど使ってはならない。

 さらに、瓶詰め後の貯蔵熟成期間は庫内を不必要に移動しないように、計画的な配置管理に努めるべきである。ワインでは瓶を立てて置くか横に倒しておくかが問題となるが、合成樹脂コルクやスティルヴァン・スクリュー栓の場合は縦置きでも密封状態を維持できるから正立貯蔵が正解だ。天然コルク栓の場合はコルクの乾燥=外気の流入を避けるために横臥貯蔵となるが、これを移動しなければならないときは、たとえ庫内のごくわずかな移動距離でもいったん縦置き状態にするべきだ。極力静かに正立させて、静かに移動し、しかる後に横に戻すようにすることが肝要である。

小・中型直行コンテナ船へシフト

 さていよいよ出荷である。これまで述べてきたように酒の攪拌を防止するなら正立縦箱輸送が原則である。

 では天然コルク栓を採用している高級ワインは、どのように輸送すべきだろうか。

 方法の一つは、正立縦箱輸送で、コルクが乾燥委縮しない内に輸送を終えることである。

 これは極東のハブ港機能を失った現在の日本では、通常不可能な方法ではある。しかしながらわずかに今でもこれが可能な手立てが残っている。これはさらに、航空業界の大変革の後を追って、世界の海運業界にも大変革が起こる兆しなのかも知れない――航空業界からジャンボ機が姿を消しつつあるように、海運業界から超大型コンテナ船が姿を消す日が迫っているような気がするのだ。

 東南アジア新興各国の貿易形態の基本は日本同様加工貿易である。つまり、輸入量と輸出量の間に大きな量的差異が少ないという特徴があるはずだ。新興各国はすでに、小型あるいは中型コンテナ船を満載できる物流量を創出しているのではないだろうか。つまり、直行コンテナ船の運航が可能であり、トータル・コストが他国ハブ港利用の大型コンテナ船使用より安価となる時代が迫っているように思われるのだ。

 食品類などトータル・コストよりも品質を優先した場合には、すでに小・中型直行コンテナ船に軍配が上がっているはずである。

小さなマーシャリング・ヤードにメリットあり

 十数年前に縦箱輸送サンプルを提供して下さったストーク・コーポレーション社長西山氏も小型直行コンテナ船を頻繁に利用していた。

 現在、有名なワイン輸入業者数社が横浜大黒埠頭にある倉庫にワインを預けている。なぜだろうか。

 横浜港は超大型コンテナ船を接岸できる水深がない。小・中型コンテナ船しか接岸できないらしい。必然的にマーシャリング・ヤードのスケールも小さい。それは必然的にマーシャリング・ヤードでの荷捌き期間が短くなることを意味し、通関に要する時間も短いということになる。

 二十数年前、西尾氏から同港は浚渫を惰っていると聞いたことがある。今ではそれがワイン業界にとっては幸いしているのだろう。

 ただし、大黒埠頭にワインに適した定温倉庫が豊富にあるわけではない。さらにはワインの取り扱いに精通した業者が多く存在するわけでもないらしく、私が確認した数社は、プラット・ホームにドックシェルターまで備えた同一の倉庫業者に預けていたというのが実状である。

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About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。