砂糖・甘味料受難時代へ

かっぱえびせん
かっぱえびせん

異性化糖生産・利用が軌道に乗った時代はいくつかの甘味料が健康被害の懸念から禁止された時代でもあった。一方、日本の消費事情は砂糖・甘味料にとって向かい風の時代に入っていった。

チクロ禁止の陰謀論

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「異性化糖のお話は前回で終わりってことでいいですかね」

リョウ 「うん。ところで、日本で異性化糖を作り始める前に、戦後はサッカリンとかチクロとかズルチンとかの甘味料が使われてたって話もしてたけど、あれはどうなったんだ。『全糖』表示の大人気で駆逐されちまったわけか?」

タクヤ 「だいたい1960年代の動物実験で発がん性やら催奇形性やら毒性やらが疑われたりしてるんですよね。サッカリンはいったん使用禁止になりますが、今は使用量の制限はありますが、禁止ではないです。チクロとズルチンは日本でもアメリカでも、今は禁止ですね。チクロは日米とも1969年に、ズルチンはアメリカでは1954年に、日本では1969年に禁止されました」

リョウ 「実際、どうなんだ。やばいのかね、その3つの甘味料は」

タクヤ 「サッカリンは、今それなりに使われてますからね。適正量なら問題ないということでしょう。ズルチンは発がん性もさることながら、大量になめたり使ったりして中毒死なんていう事故があったもんですから、禁止ってことになったわけです。微妙なのはチクロですかね」

リョウ 「発がん性とか催奇形性があるってことになったんだろ?」

タクヤ 「アメリカの食品医薬品局(FDA)がそれを言い出して、日米で禁止になったんですがね。でも、そんなことないよっていう研究も報告されてます。それで、EU、カナダ、中国など数十カ国では禁止されてません。こういう規格の違いが食品の輸入の際に厄介な問題になったりするわけですが」

リョウ 「ははあ。そこでだよ、タクヤくん。1960年代にチクロを禁止した代表的な国がアメリカと日本だというのは、クサイと思わないかね?」

タクヤ 「と言うと?」

リョウ 「日本は異性化糖生産の工業化に成功した国。アメリカはそれに必要なトウモロコシをたんまり持っている国。異性化糖工業の拡大のために、チクロなどの甘味料に規制をかけたっていうことが、あるんじゃないかね?」

タクヤ 「隊長、それ陰謀論てやつですよ。結果的にそれが異性化糖普及にプラスに働くことがあったんだとしても、わざとだって短絡するのはどうですかね。それに、チクロの復権に尽力したアボット・ラボラトリーズっていう会社はアメリカの会社ですしね」

リョウ 「ふーん」

日本人が甘味を摂らない時代へ

タクヤ 「まあ、チクロ使用禁止では缶詰メーカーなどがたくさん倒産するなどたいへんな影響があったわけですが、砂糖、異性化糖、その他甘味料業界には、もっと深刻な変化ってあったんですよ」

リョウ 「そりゃ何だ?」

タクヤ 「国民栄養調査っていうのがあって、2002年以降は国民健康・栄養調査っていうのに変わったんですが、その国民栄養調査で砂糖・甘味料類の摂取量の推移っていうのを見ると、1972年に激震が走っていることがわかります」

リョウ 「激震?」

タクヤ 「日本人の砂糖・甘味料類の摂取量は、1969年の20.7gがピークで、翌年と翌々年にちょっと下がるんですが、1972年には一気に13.0gに落ち込んだんです。翌1973年はさらに12.4gに。1974年にはいったん15.1gまで持ち直すんですが、翌年以降はずっと下がり続ける趨勢に入って今日に至る、って感じです」

かっぱえびせん
かっぱえびせん

リョウ 「あー、甘いもの食べなくなってきたってわけ?」

タクヤ 「そういうことです」

リョウ 「何でだろね? ダイエットがどうのって、もうちょっと後なんじゃないのか」

タクヤ 「国民の嗜好というか、求めるものが変わったんだと思いますよ。この1970年頃に」

リョウ 「1970年ね。そりゃ、『かっぱえびせん』がブレイクした年だ!」

タクヤ 「大正解。あと1971年のヒット商品と言えば」

カップヌードル
カップヌードル

リョウ 「『カップヌードル』だ!」

タクヤ 「大ピンポン。あと、1970年には『ケンタッキーフライドチキン』、1971年には『マクドナルド』が上陸してます。カップ麺もファストフードも、まあご飯代わりにはなるんですが、基本的に間食ですよね。つまり、1970年を境に、日本人はおやつに甘いものではなく塩辛いものを選ぶようになったという変化を見ることができるでしょう」

リョウ 「そりゃ一理あるな」

タクヤ 「あと、国民1人当たりの摂取カロリーも、1971年の2287kcalがピークで、翌年以降ずーっと下がっていく趨勢に入ってます」

リョウ 「甘いものほしい。お腹いっぱい食べたい。そういう時代が、その頃に終わったと見ることができるわけか」

タクヤ 「そしてさらに、甘いものは太るとか、虫歯になるとか、糖尿になるとか、避けなければいけないように思われる時代に入っていったと」

リョウ 「甘いの受難の時代」

タクヤ 「とは言っても、やっぱりキホンみんなスイーツ好きではあるんですけどね」

リョウ 「ケーキ屋さんが、『今は難しいのよ』って言ってたことがあったな。昔は砂糖をたっぷり使えたから生クリームはホイップしやすかったし、形も崩れにくかった。でも今のホイップはどうしても弱くなるし、足もはやくなりがちだって」

タクヤ 「お菓子もレシピや管理のしかたが変わったわけですよね」

リョウ 「でも、カロリーが小さい甘味料とか、虫歯になりにくい甘味料とかも開発されてるよな」

タクヤ 「そうです。甘味料は、ただ甘いだけの時代から機能性が注目される時代になっていったわけですよ」

リョウ 「機能性な」

タクヤ 「中には、甘味としてはほとんど期待されず、むしろ専ら機能性が注目される糖なんていうのも登場します」

リョウ 「そんなのあるのか?」

タクヤ 「今は、普段食べているものにもかなり使われていますね」

リョウ 「教えろ!」

タクヤ 「次回!」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。