価格変動があって増粘多糖類もたいへんですの巻

タラガムの原料、タラの苗。

昨年グァーガムが高騰というニュースを思い出すリョウ。リョウとタクヤは、増粘多糖類の価格や調達の話を始める。

シェールガス革命でアイス業界涙目

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「連休近くなって、暖かくなってくると、暑いわけではなくても、なんだかたまにアイスクリームとかアイスキャンディとか食べたくなりますね」

リョウ 「催促か?」

タクヤ 「いやそう言うわけでは」

リョウ 「買ってあるから冷蔵庫から出して食え」

タクヤ 「あ、それはありがたいです。では早速」

リョウ 「アイスで思い出したんだが、去年、アイスキャンディメーカーが材料高騰で悲鳴を上げてるっていうニュースがあったな、確か」

タクヤ 「ありました、ありました。あれはグァーガムが高騰したんです。その後多少落ち着いたようですが」

リョウ 「何でグァーガムが高騰したんだ?」

タクヤ 「あれの場合は、シェールガスの影響ですね」

リョウ 「何で天然ガスの事情が増粘多糖類に影響するんだ?」

タクヤ 「シェールガスというのは、地下数百mとか数千mとかの穴を掘って、今までムリとされていた層からガスを取り出すっていうやつですね」

リョウ 「アメリカが、そうやって吸い出せるならウチんとこの地下にうなるほどあるぞと言い出して、エネルギー資源の勢力図が変わりそうなんだよな」

タクヤ 「で、実はそういうタイプの穴を掘るときに、以前から油田でもそうだったんですが、フラクチャリングという技を使うんです。水圧をかけて岩に割れ目を作って、そこに砂などを埋めてつぶれない通り道を作るという」

リョウ 「油田でもそういう方法でやってたのか」

タクヤ 「はい。で、その水圧をかけるときの液体ですが、水だったり油だったりエマルジョンだったりするわけです」

リョウ 「エマルジョンて、化粧水か何かで聞く言葉だな」

タクヤ 「乳液、乳濁液です。水の中に油滴があるような。それを作るのに、増粘多糖類が必要というわけなんですよ」

リョウ 「それでグァーガムが高騰したのか。でも数ある増粘多糖類の中でも、何でグァーガムなんだ?」

タクヤ 「隊長、グァーガムの最大のメリットは、安い、というところなんですよ」

リョウ 「そうだったのか!」

タクヤ 「たとえばですね、カニ缶などの高級缶詰にはローカストビーンガム(LBG)を使いますが、100円玉で変えるイワシ缶とかサバ缶とかはグァーガムを使うとか、そういう使い分けが昔からあるんです」

リョウ 「で、ガスを掘るのに増粘多糖類がいるぞ、中でも安いグァーガムがいるぞ、と」

タクヤ 「と、考えた人たちがいて、グァー市場に投機マネーが流れ込んだ、と考えるのが妥当でしょう。なにしろ、シェールガス採掘でもそう莫大な量を使い続けるというわけではなさそうですから」

リョウ 「しかし、グァーガム生産地はほくほくだな」

タクヤ 「インドやパキスタンでは、これを受けて作付面積を増やしているようです。高騰の沈静化はそれを見た動きでもあるでしょう」

リョウ 「ほかに使えるものはないのかね」

タクヤ 「キサンタンガムも使えるようです。あとカルボシキメチルセルロース(CMC)というのも。これもアイスクリームなどに使われますが、あとは歯磨き粉とか塗料とかにも使われています。ただ、グァーガムのほうがより天然素材っぽく聞こえるようで環境配慮のイメージ的にグァーガムに行っているようでもあります」

リョウ 「こんなところにも環境か」

タクヤ 「増粘多糖類以外では粘土のベントナイトも使えるらしいですが、こっちも値段が上がったようです」

リョウ 「ベントナイトは放射性物質のろ過にも使うから、東電福島第一原発事故に関連して使用量が増加している事情もあるのかもしれないな」

農産物ゆえに価格変動はある

タラガムの原料、タラの苗。
タラガムの原料、タラの苗。

タクヤ 「いずれにせよ、増粘多糖類のほとんどは農産物や水産物などですから、気象の影響を受けます。また産地で戦争や紛争があればその影響も受けます。スパイスや嗜好品と同じことで、またそういう状況を見ながら投機の対象にもなって、価格が乱高下することがあります」

リョウ 「その間にLBGが下がったりということはないのか?」

タクヤ 「LBGは元が高いですから、50円~100円のアイスに使うとはなかなか行かないでしょうね。しかし、タラガム生産者はこれはチャンスと感じているようです」

リョウ 「タラガムもマメ科だったな」

タクヤ 「タラというマメ科の木の種子から取るものです。タラというのは、元は革のなめしなどに使うタンニンを取るための木で、かつてはマメは捨てられたり牛の餌にされたりしていたようです。ところが、それから採れるタラガムがいいじゃないかということで、利用されるようになってきました。ちょうど、栽培面積を拡大する動きがあった直後です」

リョウ 「どこで作ってるんだ?」

タクヤ 「ペルーです。この生きた種子はペルーから持ち出し禁止で保護されています。

リョウ 「値段は?」

タクヤ 「これまではLBGとグァーガムの中間程度と言われてきました。産地拡大で少し安くなる期待もあります」

リョウ 「だけどな、安かろう悪かろうということがあるんじゃないのか?」

タクヤ 「そうですね。LBGはグァーガムに比べると、食品に色や香りを付けてしまうことが少ないので、素材の持ち味をなるべく伝えたいものによろしいということになっています。タラガムも色や香りを残すことは少ないようです」

リョウ 「微生物の発酵で作るキサンタンガムとかジェランガムの価格はどうなんだ」

タクヤ 「キサンタンガムとかジェランガムは工場で作るので気象等の影響は少ないと言われていますが、必ずしもフリーとは行かないでしょう。工場だから増産・減産のコントロールはしやすいかもしれませんが、原料はコーンスターチだったりするので、ということはトウモロコシ価格の影響を受けるということになります」

リョウ 「そうか。去年は歴史的干ばつでアメリカ産トウモロコシが大減産という年だったな」

タクヤ 「そういう意味では増粘多糖類利用業界も、このところずいぶんキツイ目に遭っていると言えます」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。