アレルギー「なぞなぞ表記」の疑問

いきなりだが、次の「なぞなぞ」めいた文章の意味について、お考えいただきたい。

  • 本製品は、落花生(特定原材料等の名称)を使用した設備で製造しています。
  • トウモロコシの輸送設備等は、ダイズ/コムギの輸送にも使用しています。
  • 本製品で使用しているアサリには、カニが共生しています。
  • 本製品のシラスは、カニが混ざる漁法で採取しています。
  • 本製品で使用しているイトヨリダイは、エビを食べています。

さて、その「ココロ」は?

 これは、2001年にスタートした食品衛生法によるアレルギー表示制度にもとづき、実際に食品に記載されている文言だ。カニやエビの生態について尋ねるなぞなぞの設問ではない。

 なぜ、こんななぞなぞめいた文章になるのか。それには理由がある。アレルギー表示制度では、08年に追加されたエビ、カニを含む7品目が表示義務のある特定原材料、表示が奨励される特定原材料に準じる18品目が定められている(追加2品目は、10年6月3日まで表示猶予)。食品事業者は、食品中の特定原材料のアレルゲンたんぱく質量を測定し、その量が数μg/g(ml)以上の場合、表示しなければならないとされている。

 ただし、それ以下でも同一のラインで製造する場合、前の製品の一部が次に混入することが起こり得るし、ラインの洗浄に配慮しても避けられないため、注意喚起の文章が必要となる。その際の表現が冒頭のなぞなぞ表現となるのだ。こんなに分かりにくいなぞなぞ表現はやめて、「○○が混入していることがあります」と表示をしたほうがよいかと思うが、この表現は可能性表示といい、アレルギー患者の選択の範囲を狭めるとして禁止されている。可能性表示を許せば、失敗を避けたい食品事業者が、可能性がないものまで可能性表示をしてしまうかもしれないからだ。

 近年、こうしたアレルギー表示の不備が原因で起こった食品の自主回収件数は無視できない件数だ。農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の調査によると、08年は食品の自主回収が845件発生したうち、不適切なアレルギー表示が理由で回収されたのが62件だった。自主回収であるので、何らかの健康被害を及ぼす事件ではなく、表示のルールに反したことが理由である。可能性表示の問題なども含め、それほどアレルギー表示が難しいということだ。

 例えば、キャリーオーバーや加工助剤などは表示不要の食品添加物であるが、わずかな量であってもその量を確認する必要がある。確認作業は、企業の規模にかかわらず費用も時間もかかる。ミスがあると、自主回収や損害賠償など経営的に大きな打撃を受ける。そうした経営危機を避けるためにも、厚生労働省が今年3月に改訂した「アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック」 を読み込み、具体的な表示制度の詳細を理解してほしい。

 さて、とても分かりにくい冒頭のなぞなぞ表記は、次の例のように意図を明確に示し、フォーマットを統一してみてはいかがだろうか。

以下に「重篤な」アレルギーを持つ方は、本食品を避けてください。

  • 落花生(同一ラインの製造による混入)
  • ダイズ・コムギ(トウモロコシへの輸送設備共用による混入)
  • カニ(アサリへの共生)
  • カニ(シラスに混入する漁法)
  • エビ(イトヨリダイに餌として混入)

 分りにくい注意喚起表示は、表示見落としの原因にもなるのではないか。懸念されるのはこれだけではない。アレルギー表示は、「乳」であれば、代替表記「バター」や特定加工食品「生クリーム」といった表示を認めている。しかし、私は代替することで、やはり分かりにくいと感じる。また、個々の原材料の直後にかっこ書きする個別表示と原材料・添加物の後に一括表示する方法がある。個別表示の方が詳細な情報が得られるが、見落としが起こりやすいのではないだろうか。

 それでも、こうした食品アレルギー表示の問題解決に役立ちそうな新たな取り組みが始まっている。その1つ、「食物アレルギー危機管理情報」というウェブサイトが、マイクロソフトの支援を受けて今年3月に本格稼動した。管理運用しているはNPO法人アトピッ子地球の子ネットワークだ。主な内容は、表示ミスや自主回収情報、失敗事例、アレルギーに配慮した料理レシピなど。まだ、活動は始まったばかりで、登録企業は目標の1割の11社にとどまっているそうだ。今後、より多くの企業の理解を得て登録を増やし、アレルギー患者の生活の質がさらに向上していくことを期待したい。(食品技術士Y)

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。