シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物」報告(5)

“Tomorrow’s Table: Organic Farming, Genetics, and the Future of Food” Pamela C. Ronald, Raoul W. Adamchak
「有機農業と遺伝子組換え食品 明日の食卓」(椎名隆、石崎陽子 訳)

2011年12月、シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物~将来の90億人を養うために今考えること」が開催された。出席したNPOくらしとバイオプラザ21の佐々義子氏に、その報告を記してもらった。今後目指すべき循環型農業に遺伝子組換え作物が果たす役割の指摘。

持続型農業=有機農業ではない

「遺伝子組換え作物を有機栽培するアイディア」
石崎陽子氏(京都府立大学生命環境科学研究科)

‘Tomorrow’s Table’を見つけて翻訳し、丸善で出版することになった。「明日の食卓」はパメラ・ロナウド(植物病理の著名な研究者)とラウル・アダムチャック(カリフォルニア大学デイビス校で有機農業を教えている)夫妻が、遺伝子組換え作物で有機栽培するというアイディアを考え出して、書いた本。

 有機農産物は農薬を使わずに栽培され安全で高価。遺伝子組換え作物は安全だと思うが食べるのは不安。アンケートを取ったところ、遺伝子組換え作物を有機栽培したものを受容すると回答した学生は22%だった。

 生物多様性を保持しつつ食料を増やすには、単位収穫量を増やすしかなくて、農薬が利用されてきた。WHOでは農薬中毒事故は、今も100万件あって、死亡者は2万人と報告している。被害は発展途上国に多く、幼少期の農薬被害を小さくする運動もWHOは行っている。過剰な農薬は水に出ていくので、この環境負荷も減らさなくてはならない。

1. 十分な食料供給とアフリカのような発展途上国の農家の経済的自立
2. 環境負荷を少なくする

 この課題を解決するには、持続型農業が大事。これは有機農業とイコールでない!

 有機農業だとエネルギー使用効率は慣行農業の2倍になる(河川に窒素が出ない、堆肥によって地力が衰えない※2、農薬使用量は97%減る、農薬事故がないという利点がある)。

 しかし、有機農業では制御できない病気があり、乾燥や水害に弱い、生産収率も悪い(イネは3~5割減)。有機だけで世界を養うには耕地面積を増やす必要がある。

 持続型農業にはマーカー支援選抜と遺伝子組換えの両方が必要。しかし、マーカー支援選抜では遺伝情報が蓄積されていてかつ交配可能な植物間でしか行えない。遺伝子組換えは交配できないものにも使える。

 2015年には、150種の遺伝子組換え作物が出来るだろうと言われている。世界の殺虫剤の25%がワタ栽培で利用されており、その15種類に発がん性がある。農業者の健康を守るために農薬散布を減らすべき。遺伝子組換え害虫抵抗性のワタなら農薬を散布しなくていい。Btワタで中国、インド、アメリカの殺虫剤使用量が減った。Btとは、石渡博士がカイコの卒倒病で単離に成功したバクテリアの毒素で有機農業でも使用されている。ヒトには害がない。

 冠水耐性イネがロナウド博士により開発されているところ、洪水の多いインドで利用できるだろう。今ある品種には2週間冠水しても大丈夫なものがあるが、粒が小さくて商業栽培にはならない。ロナウド博士は冠水耐性遺伝子Sub1を同定して、マーカー支援選抜で実用品種に導入している。

 安全性が確認された遺伝子組換え作物ならば持続型農業の役に立つはず。交雑については、ケースバイケースで考えていくべき。たとえば、ダイズとツルマメの交雑試験も行われている。

まとめ

・有機農業の意義は循環型農業であることなのに、それが意識されていない。
・地球上に飢餓問題があるが、農地を増やす方向性は取りにくい。
・遺伝子組換え作物を循環型農業の実現のために利用することには、試す価値がある。

※2 有機農業のメリットの例。現実には堆肥等有機肥料の過剰施肥による土壌障害、地下水および河川等の水質への悪影響が報告されている例もある。(編集部)

〈続く→〉

〈初回から読む→シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物」報告(1)〉

佐々義子
About 佐々義子 34 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事・主席研究員 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。生物科学博士。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。「食の信頼向上をめざす会」幹事。