有機栽培にも役に立っていた害虫抵抗性GM作物の導入遺伝子

mementos of FoodScience
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はじめまして、コロと申します。遺伝子組換え(GM)技術や、それを応用して育種された作物は、食糧増産、土壌劣化や水不足、地球温暖化などの環境変化への解決策の1つとして、大いに期待されています。しかし、科学的な説明が十分にされていないため、とても分かりにくく、議論も滞りがちです。私たちの地球の将来のためにも、ここでしっかり議論を進めなければ…。そこで今日から、相棒のルルとともに、遺伝子組換えで何が議論の争点になっているのか、どう理解してけばよいのか、できる限りやさしく解説していきますよ。

ルル:遺伝子組換え作物の開発者から遺伝子組換えのメリットについて聞く機会は少なくありません。しかし、それを聞いた人たちからは、「メリットは分かるけど、リスクについても話してくれないと、バランスが取れないよ」という声が、しばしば挙がっていますよ。一般的に言われる遺伝子組換えのリスクとは何なの?

コロ:遺伝子組換えのリスクといっても、ひとくくりにして語ることのできるリスクはないんですよ。遺伝子組換え作物はあくまでも遺伝子組換えという「技術」を用いて作出した作物の総称なんです。それぞれの遺伝子組換え作物は異なる特徴や特性を持っていて、その特性に付随するリスク(メリットも)は、その特性によって決まります。そこで、ここでは「ある特性を持つ遺伝子組換え作物」のリスクについてに絞って取り上げていきますよ。

ルル:メリットやリスクは、それぞれの作物の性質によって違ってくるということですね。

コロ:まず今日から2回にわたり紹介する遺伝子組換えの「リスク」は、害虫抵抗性の遺伝子組換え作物についてです。今回は、害虫抵抗性の仕組みについて解説し、次回はこの作用に抵抗性を持つ害虫の出現というリスクについてお話します。この害虫抵抗性の遺伝子組換え作物とは、土壌細菌の一種であるバチルス・チューリンゲンシスが生産するたんぱく質を作り出す遺伝子を導入した作物(ワタ・トウモロコシ)のことです。このたんぱく質はそれを生産する細菌の名前(Bacillus thuringiensis)の頭文字を取ってBtたんぱく質と呼ばれていて、20世紀初頭からその存在が知られています。1980年代には日本でも、 Btたんぱく質の結晶やBt細菌そのものが生物農薬として登録され、現在に至るまで広く使用されているんですよ。Btたんぱく質やBt細菌は有機栽培でも使用が認められている生物農薬なのです。

ルル:有機栽培が好きな人たちは遺伝子組換えを嫌う傾向が強いけど、害虫抵抗性の遺伝子組換え作物に導入されている遺伝子は、有機栽培にも役に立っていたとはびっくり。

コロ:Btたんぱく質は「Bt毒素」とも呼ばれますが、これはBtたんぱく質が特定のガの仲間の害虫に毒性を示すからです。あとで説明しますが、Btたんぱく質は特定の害虫には効果がありますが、それ以外の虫や動物、人間には影響はないんです。

ルル:ふーん。では、Btたんぱく質はどうやって働くの? どうして特定の害虫以外のほかのものには影響がないの?

コロ:まず、Btたんぱく質を生産する作物の作り方から説明しましょう。Bt細菌はBtたんぱく質を作る遺伝子を持っています。その遺伝子を取り出し、ワタやトウモロコシの細胞に導入します。そしてBtたんぱく質が生産されていることや作物が良い形質を持っていることなどの確認を重ね、この遺伝子を備えて作物として優れているものを作り出します。次に、食品や飼料としての安全性、そして環境中での安全性を証明するデータを取り、各国の安全性評価を経て安全性の認可を得ます。こうしてやっと一人前の遺伝子組換え作物…BtトウモロコシやBtワタなどになるんです!

ルル:そうやって開発された遺伝子組換え作物は、作物の体の中でBtたんぱく質を作るようになるんですね。

コロ:そうですよ。Btたんぱく質が毒として働く――これを「感受性がある」という言い方をしますが、感受性のある害虫は、この遺伝子組換え作物を餌として食べると、Btたんぱく質のせいで死んでしまいます。例えばトウモロコシの害虫であるアワノメイガは、トウモロコシの上に卵を産み付けますが、その卵から孵った幼虫がBtトウモロコシを食べると死んでしまうんです。

ルル:その害虫を死んでしまう仕組みは、どうなっているの?

コロ: Btたんぱく質はアワノメイガの消化管に入ると、アルカリ性の消化液と消化酵素の働きで部分的に分解を受けますが、その分解物は消化管の壁のある特定の部位(レセプター)にくっつき、細胞を壊してしまい、栄養を吸収することができなくなってしまうのです。栄養を吸収できなければ餓死してしまいます。つまり。この分解物は、アワノメイガに対して毒として作用するといってよいでしょう。面白いことに、Btたんぱく質を直接アワノメイガに注射しても、消化管で説明したようなことが起こらないので、この場合は毒としては働きません。また、ほかの生物にはBtたんぱく質がくっつく部位が消化管の壁にないため、効果がありません。さらに人間などの場合は、消化液が酸性であるため、全部分解してしまうので影響はないんですよ。

ルル:なーんだ。毒を食らって死ぬのではなく、栄養を吸収できなくて餓死するのかあ。だいぶ印象が違うなあ。

コロ:もっと言えば、Btたんぱく質は1種類だけじゃないのですよ。生産するBt細菌の種類によってBtたんぱく質の構造が少しずつ異なり、毒として働く対象の害虫の種類もそれぞれ異なるんです。チョウ目(アワノメイガなどのガの仲間)に効果のあるもの、コウチュウ目(ネキリムシなどのコガネムシの仲間)に効果のあるものと、異なるBtたんぱく質は異なる害虫に効果を持っています。Btたんぱく質でも、チョウ目に効果のあるたんぱく質はコウチュウ目には効かないし、逆も同じです。

ルル:以前、このBtたんぱく質を食べた害虫が死んでいく姿を映したビデオを見て怖くなったけど…。

コロ:それは、虫を食べて死んでしまうものを人間が食べてよいのだろうかというメッセージが、偏向的に打ち出されていたからでしょう。だけど、これまでに説明した通り、Btたんぱく質は害虫を殺してしまう作用はありますが、ほかの生物には効果がなく無害です。化学農薬は、農業の発展を支えてきた重要な資材ですが、それを嫌う人もいるのは事実です。そこで、化学農薬に代わる生物農薬が、害虫以外の生物への影響のない環境にやさしい害虫駆除法として注目を集めるようになりました。遺伝子組換え作物として、生物農薬の1つであるBtたんぱく質を作物の中で作らせることは、作物についた害虫だけに作用し、一方で環境に対する影響は小さく、人間などの動物には安全性が確保されたという点で、願ってもない害虫駆除法だと言えるでしょう。

ルル:Btたんぱく質は、化学農薬よりずっと環境に優しい生物農薬なんですね。

コロ:今回は、現在商業化されている主要な遺伝子組換え作物の 1つである害虫抵抗性のメカニズムについてお話しをし、害虫には効果があるけれど、人間などの動物にはまったく影響がないことをお話ししました。次回は、そうした安全性とは別のリスクである、効果がなくなる害虫の出現というリスクと、そのリスク回避について、いかに遺伝子組換え作物が有効な手段を持っているのかを解説します。乞うご期待。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

コロ
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穀物関係機関勤務 微生物学を研究の後、在日大使館、外資系企業日本支社勤務を経て、現在穀物関係機関勤務。科学的な視点でさまざまな食関連の問題に取り組んでいる。FoodScience(日経BP社)では「コロのGM早分かり」を連載。