作物の栄養(14)マグネシウム

マグネシウムは、他の成分よりも比較的扱いやすい成分だと言えます。不足を発見しやすく、応急的な対処も可能だからです。しかし、そのために障害の根本原因を見逃したり、対処を怠ることのないように注意が必要です。

植物の体の中で“配置換え”が可能な成分

 マグネシウムは、農業の現場では苦土と呼んでいます。この「苦」というのは海水から取るニガリの意味でしょう。マグネシウムは身近なものの中では海水に多く含まれる成分です。これは陸地の岩石が風化して溶け出したものが膨大な時間の中で海に集められていったのでしょう。

 植物にとってのマグネシウムは、とくに光合成作用に大きく関係します。と言うのも、光合成をする葉緑素の中心的存在のクロロフィルという物質は、その構造の中心にマグネシウムを配置しているのです。

 植物のマグネシウム欠乏症の初期症状は、葉の緑がわずかに薄くなるという形で現れます。筆者はこれを見るといつも、やはりマグネシウムがクロロフィルの中心にある物質なのだなと感じます。

 マグネシウムは、前回までのカルシウムに比べると、与えた結果がすぐに出やすいものです。しかし、作物がすぐに反応するということは、これを欠乏させたままで栽培を続けていてはだめだということの裏返しだと考えています。

 また、マグネシウムは、これも前回までのカルシウムと違って、植物の体内での移動が可能な成分です。

 たとえば、ハウス栽培のトマト園では下の方の葉が葉脈を緑に残して葉脈の間は黄色になって、トラの模様のようになっているのをよく見かけます。これは、下の方の古い葉の状態がそうであって、たいていは上のほうの新しい葉は健全な状態になっているものです。

 これはどういうことかと言うと、役目を終えた古い下のほうの葉はもうマグネシウムは不要なので、トマトはこの不要になった葉からマグネシウムを取り外して、上部の活動しなければならない葉の方に配置換えした、というように理解するといいでしょう。

葉面散布で応急的対処が可能

 このマグネシウムの特徴はまだあります。それは、葉の表面からの吸収がしやすいということです。

 栄養成分は根から吸い上げれるというのが一般の植物の基本ですが、肥料成分を葉の表面から与える方法が農業にはあります。これを葉面散布といいます。

 施用は噴霧器で行えばよいことで、難しくはありません。野菜ではキュウリがこの方法でかなりの成分を与えることができます。

 葉面散布は、各種無機栄養のほか、アミノ酸など有機成分も同時に与えることも行われます。その中でも、最もよく吸収されるのはダントツにマグネシウムです。それは、葉の葉緑素の骨格になる成分であるということと関係があるのかどうかはわかりませんが、とにかくそういうことが現場では起きています。

 このことは野菜など生育スピードの速いものでは、大変対応しやすく、助かることではあります。

 しかし落とし穴でもあります。作物が欠乏症を起こすいうことは、何かうまくないことが土壌中に起きている証拠にほかなりません。ですから、対症療法としてマグネシウムを葉面散布することに一生懸命になるだけでなく、障害の根本原因を解明して、それに対処することが大切です。

 根本原因の原因として考えられることはいくつかあります。

 一つは、マグネシウムそのものが土壌中に少ないことが原因である場合です。この解決は簡単です。

 しかしもう一つ、前回カルシウムについてお話したのと同じように、マグネシウムの吸収を邪魔する他の成分が存在するということもあります。

 マグネシウムの吸収を阻害する成分には、主にカリの過剰があります。また、カルシウムと同じくアンモニアも阻害に働きます。

障害の根本原因への対策を忘れずに

 さて、マグネシウムはカルシウムよりは現場での実態把握や改善の手を打つことが容易ではあるのですが、やはり基本は土壌の中でどうなっているのかを知った上で対処することが重要です。

 では何を知ればよいでしょうか。それは土壌分析から読み取れるマグネシウム飽和度の値です。これはマグネシウムが土のコロイドに吸着されている状況を示すもので、パーセントで表示されます。その数値が最低10%は必要で、適正値は15%前後ぐらいでしょう。

 この値が低すぎると欠乏症の原因になります。その欠乏症が出た場合、先に述べたように葉面散布で一時的には回復させることはできます。葉面散布や応急的な追肥には硫酸マグネシウムを施用すれば解決しますが、土壌中に不足したマグネシウムを補うには、水酸化マグネシウムというものが有利です。これは成分が高い割には安価です。そのため、逆にやり過ぎてしまう農家が多い資材でもあります。

 いずれにしても、まず初期症状が出ていないかを見ることから始めるのがいいでしょう。野菜など栽培している畑に行ったときは、葉がトラのような模様になっているか見てください。このマグネシウムの欠乏症の見つけ方から作物の栄養診断を始めると、とてもわかりやすいものです。

 そして繰り返しますが、葉面散布などの応急処置は根本解決ではないことにやはり注意してください。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。