今回は10日後に迫るバレンタインデーにちなんで、チョコレートにかかわりのある作品を取り上げる。
2012.02.04
編集者
rightwide
![]() |
守護天使の落し物と思しき白い羽根が上空から風に乗って主人公フォレスト・ガンプ(トム・ハンクス)の足元に舞い降りるまでをワンカットで捉えたシーンで始まる本作は、彼がバスを待つベンチで居合わせた人々にこれまでの半生を語り聞かせる回想形式で進行する。その最初の一人である黒人女性にチョコレートを薦めていうのが次のセリフである。
“Life is like a box of chocolates. You never know what you're gonna get.”
(人生はチョコレートの箱のようなもの、開けてみるまで中身はわからない)
フォレストは生まれつき知能指数が低く、背骨が歪んでいるため脚装具を付けないとまともに歩けなかったが、母(サリー・フィールド)はそんな彼を特別扱いせずに女手ひとつで育て上げた。チョコレートのセリフは、その母の息子への励ましの言葉の一つである。
アメリカではミルク、ナッツ、ヌガーなどいろいろな味のチョコレートのランダムな詰め合わせが売られていることが多い。ここで言うチョコレートの箱とはそれのことで、開けて食べてみないと中身がわからないことを先読みのできない人生のたとえとして、ハンディキャップを背負ったフォレストにも希望があることを教えていた。
彼の人生はこのセリフに象徴される波乱万丈の軌跡をたどる。
母の愛情を受けて天真爛漫に育ったフォレストは、ある日いじめっ子に追いかけられていると、突然脚装具が外れて信じられないスピードで疾走し始める。走りながら脚装具が外れていく様子をスローモーションでとらえた映像は、彼を拘束し束縛していたものから解放されて眼前に拡がる自由な世界に跳躍して行くかのように見える。
彼はその俊足を生かして大学ではフットボール選手として活躍し、従軍したベトナム戦争では銃弾飛び交う戦場を駆け抜けて命拾いし、復員後にビジネスで成功した後はアメリカ大陸を走って何往復も横断して一躍時の人となるのである。
そんな彼とは対照的な人生を送るのが彼の幼馴染で運命の人であるジェニー(ロビン・ライト)である。
フォレストと小学校のスクールバスで出会った彼女は、母以外に彼をバカにしなかった唯一の味方として、フォレスト曰く「豆とニンジンのようにいつも一緒」の関係になる。これはアメリカの家庭料理ではシチューなどを煮込む時に豆とニンジンは必ず入る定番の食材であることから、切っても切れない関係を示す諺である。
しかし彼女は幼児期に父親に性的虐待を受けた事件がトラウマとなり、「鳥になってここではないどこかへ逃げ出したい」と願うようになる。「PLAYBOY」のモデルになって女子大を退学になった後は、ストリップ小屋の歌手やヒッピー暮らしと転々とし、ブラックパンサー党(Black Panther)の反戦闘争に関わった後に麻薬に手を染める。
実は冒頭のシーンでフォレストはジェニーに久しぶりに会うためにバスを待っていて、黒人女性に薦めたチョコレートは彼女へのプレゼントなのである。それをつまみ食いしてしまうあたりが天真爛漫なフォレストらしいのだが、彼は大学時代にも彼女にチョコレートを贈っており、それは人生に苦悩する彼女にも母の教えをわかって欲しいという彼なりの愛情表現なのだろう。
この作品でチョコレートと並ぶ幸せを呼ぶ食材と言えばエビである。
フォレストが入隊に向かうバスの中で出会った(今回も人生の大切な出会いはバスである)黒人新兵ババ(ミケル・T・ウィリアムソン)は、フォレストに開口一番「エビ採り船に乗ったことはあるか?」と尋ねる。ババはミシシッピ川の入江の港町の出身で、先祖代々エビ漁とエビ料理をなりわいとする家庭に育った。彼の頭の中はエビ採り船で獲れたエビが調理されて食卓に上るまでのイメージが駆け巡っており、辛い教練のさなかにもエビのことを考えるだけで幸せになれる男である。
彼の下唇の突き出た口から発せられるエビ料理の数々は聞いているだけで楽しくなり、人生を謳歌しているという点ではフォレストと共通する部分があって、二人は親友となる。ベトナムの過酷な戦場で二人は除隊したら一緒にエビ採り船に乗って漁をする約束をするのだが、ババは運悪く銃弾を受けて戦死してしまう。
フォレストはババとの約束を守ってババの故郷でエビ採り船を購入し、戦争で両足を失ったダン小隊長(ゲイリー・シニーズ)を相棒にエビ漁を始める。最初は不漁続きだったが、ある日ハリケーンが来襲したことをきっかけに豊漁に転じ、大成功を収める。いわばババの遺したエビへの思いがフォレストには幸運を、両足を失って人生に絶望していたダン小隊長には希望をもたらしたのである。
ケネディからニクソンまでの歴代大統領やジョン・レノンとフォレストのCG技術による共演で話題を呼んだ本作は、ベトナム戦争や公民権運動、ウォーターゲート事件といったアメリカの現代史を人間ドラマと同時に描いていて、無駄なシーンが一つもない恐るべき作品であるが、1カ所“つながり間違い”のミスがある。
ジェニーと再会したフォレストが二人の間の息子であるフォレスト・ガンプ・ジュニア(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と初対面する場面、カメラは奥の部屋のテレビでアニメを見ているジュニアに近づき話しかけるフォレストの後ろ姿と、その様子を手前の部屋で感慨深げに見つめるジェニーの表情をカットバック(切り返し)で捉えているが、最初のカットバックではジェニーの背景に映り込んだアイロン台の上のアイロンが倒れていたのが、次のカットバックでは立っているのである。
ご存知のように映画はカット順で撮影されることはあまりなく、同じシーンでも1日で撮影が終わるとは限らないので稀にこうしたミスが起こる。スティーブン・スピルバーグの「激突」(1971)のレストランのシーンでコップの水を飲んだ後のカットで水が増えているのは有名なエピソードだが、こうした“あら探し”も映画好きの愉しみの一つである。
埼玉県出身。高校時代に当時の文芸坐や火災前のフィルムセンターに通いつめ、マゼンタ色に耐色した大島渚の「日本の夜と霧」に仰天し、有楽シネマでリヴァイバル公開されたブレッソンの「抵抗」とゴダールの「気狂いピエロ」にとどめを刺され、映画を志すようになるが、すぐに「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされることになる。TV・劇場用映画の美術スタッフを10年、食関連分野の月刊誌の編集を5年務めたのち、現在は各種出版物やITメディアを制作する編集者。2009年、映画検定1級取得。年間映画観賞本数400本以上(映画館のみ)。